アナタがいたから…

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

序章 6

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「ねぇ、自分で歩けるから下ろしてくんない?」
そういう私に聖君はチラッと私の足を見た。
「そんな変な靴はいてて本当に歩けるの?」
「変な靴?」
足を見てみれば私は学校の名前の入ったスリッパを履いている。
(あ、そっか、職員室で拉致られてるからスリッパなんだ……ま、歩けなくは無いけど)
私は私を横抱きにして、私の顔を覗き込んでくる聖君を見て思った。
(でもま〜折角のお姫様状態なんだからもう少しこの状態でも良いかも?)
この20数年間で、お姫様抱っこなんて始めて。
せっかくだから味わっておこうかな〜なんて不純なことを考え出したその時に、玄関を入った真正面にある広いエントランスの先の大きな階段から聞き覚えのある嫌な声がした。
「やっぱりババァじゃん、抱っこしてもらわないと歩けないほど足腰弱ってんだ」
「ふぬぅ!なんだと!?」
「聖兄ちゃんに抱っこされてさ〜全くババァにも困ったもんだ」
「ぬぁぁあぁ!このクソガキがぁ!言わせておけば!!さっきからババァババァと!」
イライラが一気に頭まで駆け上がってきて私はいつもの調子でスリッパを手に取ると、階段の手すりに寄りかかりながら楽しそうに笑う燿を目掛けてスリッパを放り投げる。
勢い良く回転して飛んでいったスリッパは見事、燿のこめかみ辺りにヒット!
エントランスにスパーンと言う良い音がして、ポタリと床にスリッパが落ちる音がした。
私は呆然としている聖君に自分を下ろすように頼むと片足でケンケンをして燿に近づき、落ちているスリッパを履いてこめかみを押さえる燿の目の前で仁王立ちする。
「どぉだ!ざまぁ〜みたか!」
「……飛び道具とは卑怯だぞ」
「口の減らないガキには飛び道具が一番。我ながらコントロール抜群だわ♪」
「チンチクリンが偉そうに……」
「デカけりゃいいってもんでもないのよ。要は腕よ、腕」
口を尖らせチェッと舌打ちをした燿にフフンと得意げに胸を張る私に階段の上から低い声が聞こえた。
「コントロールは中々だが、もっと硬いものじゃないとな……」
「硬いものって……それじゃ当たったら痛いでしょ……って、また何か新しいのが出た」
「人を魔物みたいに言うな……チンチクリン」
「チ!チンチクリン?!」
「今、燿がそう呼んだだろう?お前の名前はチンチクリン……」
「ば!馬鹿じゃないの?!どこの世界に可愛い我が子に『チンチクリン』なんて名前付けるのよ!」
「何だ、違うのか?」
「あ〜〜翳(えい)兄ちゃん、それ違うから」
腰まである長い黒髪をサラサラと流して階段を降りてくる少々暗めの男の人はどうやら翳(えい)と言うらしい。
「あのね〜とぼけないでよね!ワザと言ったでしょ!」
「ワザと?何をだ?」
「……え?も、もしかして、真面目にチンチクリンだと思ったとか?」
「あぁ、だが違うのだろう?本当の名は何と言うのだ?」
「榊木凛……(……マジで?イヤイヤ、それってマジだったらすんごい天然な…び、美形ってことに…)」
「凛……か。それは良い名だ。コラ、燿。このように良い名前があるのだ、ちゃんと名で呼ばぬか」
「いや、翳兄ちゃん、俺はまだソイツの名前すら知らなかったんだってば」
「そうなのか?お前が迎えに行ったのではなかったか?」
「迎えに来たけど、何だか想像とは違うからって私と袁を置いて先に帰っちゃったのよね〜?僕ちゃんは……」
「うるせ〜ババァ」
「がぁ!またババァと!!」
「コラ、燿。名前で呼びなさいと言っているだろう?」
「……ご、ごめんなさい」
(おり?ふ〜ん、燿君はこの翳さんには弱いのかしら?)
私が首を捻って2人の様子を見ていると、大きな咳払いが聞こえて、偉そうなオヤジの声が聞こえた。
「もうよろしいかな?使徒様。よろしければこちらの部屋に来ていただきたいのだが……」
「OK、行きましょう。この状況から何から何までスッカリ話してもらわないと!(そう、ちゃんと説明してくれないと納得行かないもの。元の世界に戻る方法だって……ま〜どちらかと言えばイケメン天国に存在していたい気もするけど、訳のわからないことに巻き込まれるなら元に戻りたいものね。)」
私がフン!と鼻息を鳴らして声のした方へ行こうとすると、すっと目の前に手の平が差し出され、ニッコリと微笑んだ翳さんが「どうぞ」と声をかける。
「ど、どうも……」と翳さんの手の上に自分の手を乗せ、私は翳さんにエスコートされながら何だかくすぐったい感じのまま装飾も立派な扉の向こう、大きな部屋と入っていった。


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