アナタがいたから…

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

龍印 1

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何処をどう走ったのか分らないまま、私は俯いてトボトボと足を動かしている。
走りながら思いっきり泣いた。
こんなに泣いたのは久しぶりだ。
小学生の頃、私は両親を失った。
引き取られた親戚の家は絵に描いたように私を邪魔者扱いした。
高校に入ると同時に私は両親の遺産を手に入れ、そして、親戚の家を出る。
【信じられるのは自分自身】
【泣く事は負け】
そう思って今まで歯を食いしばってきた。
多少の事ではくじけない。
人の醜いところを全て経験してきたし、自分も醜くなったこともあったから……。
でも、そんな私でも……今回は……
「今回はちょっときついよ……意味が分からないもの……」
「……意味を考えるから意味がわからなくなるんじゃないのか?」
その声に俯いていた顔を上げ、私は周りを見渡した。
暗く冷たい岩肌が見える。
「ココ何処?誰かいるの?」
「ココは城の地下、はるか昔に牢として存在し、そして今もその役割を果たしている場所だ」
声は通路の脇に無数に並ぶ、岩をくりぬいた部屋の1つから聞こえてきて、私はその部屋に近づいて中を覗いた。
ボッっと小さな炎がついて、周りを照らす。
小さな炎は濡れたような黒髪に、どこかで見たことのある顔の人物が出したようで、その手の平の上で揺れ動いていた……
「翳さん?……じゃないわよね……って言う事は梟さん?」
「クス、そう、良く分ったね」
「本当に双子なのね。良く似てるもの……」
鉄格子の向こうに居るその人物は私の方へ歩いてきて格子の間から腕を伸ばし、私の頬を触った。
「温かいな……君は、誰?どうしてこんな場所にいるの?」
「私は榊木凛、この世界の人間じゃないの。この場所に居る理由は……迷子になったからよ」
「アハハ、迷子か。そうだね、そうでなければこの場所に誰かが連れてくるわけが無い」
「もう!笑わないでよ!22歳にもなって迷子だなんて恥かしいわ……」
「知らない場所に来たんだ。迷子にもなるだろう」
とても優しい笑顔を向けて言うその人物は私の頬を懐かしむように撫でて聞いてきた。
「凛はこの世界の人間じゃないって言ったね?」
「うん、私にも良く分らないけど召喚されたらしいの。この世界に……皆は異世界の住人って私の事を言うけど私にとっては貴方達の方が異世界の人なのよ……」
「異世界の……そうか、光麗を呼び寄せたんだね……」
「光麗……そう、そんな事を言ってた。ねぇ、光麗って何?」
「光麗とは我が一族を救い、我が一族の長となる者のことだ……」
梟さんの話は私を驚かせ、思わず私は首を振る。
「お、長って!救うって何?私はただの教育実習生で何も出来ないわ!」
「その昔、我等を救った異世界の民が居た。その民はどうしても異世界に帰りたいと願うようになり、我等一族がとめるのを聞かず帰ることになる……だが、その光麗は去り際に一言残した」
「な、何て?」
「私が戻らぬ時は私の名を持って私を召喚せよ。私がたとえ息絶えていようと私の一族の光麗がこの地に降り立つだろう……」
「い、一族って……わ、私の事?そんな事聞いてない……」
俯く私の肩に手を置いた梟さんはその手を私のブラウスのボタンへともっていき、スーツのブラウスのボタンを2つほど外した。
「え?ちょ、何を……きゃ!」
梟さんの両手でブラウスが開かれ、私の胸元があらわになって私は真っ赤になって必死で胸元を隠そうとしたが、梟さんはの手に阻まれる。
「大丈夫、何もしない……」
「何かするしないの問題じゃなくって!は、恥かし……あっ!」
頬だけでなく恥かしさの余り、ほんのりと色付いた私の体は私の胸元に痣を浮き上がらせ、梟さんはその痣をそっと指でなぞった。
「これこそが光麗の一族である印。龍印」
「りゅ、龍印?このぼんやりした痣が?」
「今はね。ぼんやりとしてその存在がそこにあると分るだけだけど……」
そう呟いた梟さんは優しい微笑を私に向けたまま、私のブラウスのボタンをかけて、元通りの身なりにしてくれた。
光麗の一族……
そんな事知っているわけがなかった。誰も教えてくれなかったし、誰にも聞けなかったから。
ジッと胸を押さえて俯く私の頭をふんわりと撫でて梟さんが言う。
「……僕が全てを話すわけには行かないから……後は上に居る皆に聞くといい」
格子の向こうで笑う梟さんはとても優しくて、私にはどうしてこんな場所に梟さんがいるのか分らなくって、思わず梟さんに聞いた。
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