アナタがいたから…

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

龍印 11

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豹君に連れられるまま、屋敷を出て、行き着いたのは屋敷の近くにある、もう水も出なくなっている噴水のある庭。
朽ちた噴水に、雑草が茂り、草木も萎れ、枯れかかっている。
恐らくココが手入れされている頃はとても綺麗な場所だったんだろう。
「……随分荒れてるのね」
「あぁ、ココは俺の母親が一番好きだった場所なんだ」
「豹君の?……だったって?」
「俺の母親と燿の母親は一緒だ……自然が大好きで、動物達ととても仲の良かった人だったんだ。母さんはこの屋敷の庭をいつでも手入れしていた。だから、母さんが居なくなってからは何処もかしこも荒れ放題なんだ……」
「誰か代わりにすれば良いのに……」
「……出来無いんだよ。母さんの思いが強すぎて、誰も手を入れることが出来無いんだ」
私には豹君の言っている事が良く分らなかった。
どう言う事か聞こうとしたとき、豹君が前方の噴水の向こう側を指差し言う。
「……あそこにいる」
「え?」
噴水の縁に腰掛けて、肩を揺らしている燿君の姿が見えた。
「……豹君、ありがとう。2人で話したいから」
「ん、じゃ、俺は戻ってるよ……」
「ありがとう……」
少し寂しそうな表情を浮かべた豹君だったが、走ってその場を後にし、私はその姿を見送って、燿君の近くに腰をおろす。
「……何しに来た」
嗚咽の中、私の方を向こうともしないで燿君はそう言った。
「クソガキの泣きべそを見に来たのよ」
「ムッ、お、お前に何が分るんだよ!」
「……そうね。燿君はとっても幸せ者だって言う事は分るわよ」
「お、俺が……幸せ?」
「私はね……兄弟も居なければ、両親も居ない。どんなに辛いことがあっても、苦しいことがあっても、慰めてくれたり、力になってくれる人なんて居なかった。だから、アナタの事を心配してくれる人があんなに居て、私にとってはそれは羨ましいことだし、幸せ者だなって思うの」
「凛、兄弟いないのか?親も?」
「うん、誰も居ないの……友達は居るけど、やっぱり兄弟や両親と友達は違うもの」
私がそう言うと燿君は涙でグシャグシャになった顔を私に向けて、ジッと私の瞳を見つめる。
何かを言おうとしているけれど、言葉にならないのか、言葉が出てこないのか、口から出るのは嗚咽だけだった。
そんな燿君がとても可愛く見えて、私は燿君をギュッと胸に抱きしめる。
「そんな顔しないで。私は平気だから……優しいね、燿君は」
「……ごめんなさい」
「それ、ちゃんと翳さんにも言わないとね」
「ぅん……ごめんなさい……」
胸の中で呟いた燿君の声にコクリと私は頷いた。
「本当は……凛が来るのが嬉しかったんだ。どんな人だろうと父さんの周りに居る女の人とは違う女の人が来るのが嬉しかった。でも、実際会ってみるとさ……」
「チンチクリンのオバサンで嫌だった?」
「ち、違うよ!……は、恥かしかったんだ」
ギュッと胸に抱きついて言う燿君の耳は真っ赤になっていて、多分、顔も真っ赤で口を尖らせているんだろうと思うとクスッと微笑んでしまう。
「……ねぇ、さっき豹君に聞いたんだけど、このお庭、お母さんが手入れして好きだった場所なんでしょ?」
「うん。いつも母さんはココに居て、母さんがいるだけでこの庭もキラキラ輝いてたんだ」
「ココをその綺麗に輝いていた時のように出来ないかしら?」
「それは……無理だよ……」
小さく沈むような声でそういった燿君は私から離れ、スッと立って私に手を差し伸べた。
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