アナタがいたから…

＜燿、泣かないで……＞

燿君をその光の中に閉じ込めて女の人がそう言うと、燿君は呟くように言う。

「母さん、酷いよ……」

＜ごめんね……。燿がココで想いをぶつけてくれている事は分かっていたの、分っていたのに何も出来なくて……＞

その言葉に燿君はただ、涙を流してその光の顔を見つめた。

２人の会話を、そして２人の再会をもっと長くしたかったが、初めて龍印を発動させたせいなのか、それとも、あの黒い炎のような影を消滅させたせいなのか、私は意識を保っているのがやっと。

（ぅ……ご、ごめんなさい……あと、少ししか持たないわ……）

女の人に何とか伝えると、女の人はコクリと静かに頷いて、燿君に言った。

＜燿、母さんは何時だってアナタの心の中に、アナタの傍にいる。命を燃やし尽くしてしまった事、後悔してないとは言わないわ……もっと、アナタや豹と一緒に居たかった＞

「俺だって！……もっと母さんと……」

＜うん、ありがとう……。でもね、母さんの命が尽きた事でアナタが梟さんを恨んだり、悲しむのは嫌よ。皆がアナタを心配しているわ……分っているでしょう？＞

「……わかってるよ……わかってる。でも！」

＜恨みは何もうまない……悲しみに溺れていては回りは見えないわ。私の大切な燿、分るでしょ？母さんはもう死んだの。戻ることはない……＞

静かに言う女の人の言葉は残酷な優しさだと私は、胸が苦しくなる。

誰よりも、経験してきた事だけに、私にはその優しさが痛いほど分り、そして、それを理解しきれない燿君の気持ちも分かっていた。

「そんな風に言わなくても……」

＜わかって、燿。アナタは強くならなくてはならない。これから、鬼龍王に襲ってくる闇と戦う為に強くなくてはならない……彼女を守って、そして梟さんを助けてあげて……＞

「闇って？梟を助ける？……母さん、それはどういう事……」

＜いずれ分るわ……梟さんを苦しめ、私をこの場にとどめて苦しめた者……＞

光り輝く彼女にすがるように燿はその光を掴んだが、フワリと風に揺らめいて、人の形をしていた光は流れはじめる。

何とか彼女を留めようと私は自分の意識を必死で保とうとした。

そんな私を優しく温かい光が包見込む。

＜ずっと、この場所に縛り付けられるのかと思っていた。ずっと、人を恨んでいかなければいけないのかと……ありがとう……凛。やっと、私は自然に帰れます＞

「母さん！！」

（待って……もう少し……もう少し頑張れるから……）

＜いいえ、十分です……これ以上私を留めようとすればアナタが壊れてしまう……龍印の力は諸刃の剣。決して力に流されぬように……燿をお願いします＞

彼女がそう言うと一陣の風が通り抜け、その光り輝く粒子をキラキラと空へと舞い上げた。

（ま、待って……壊れるって？ねぇ！）

＜燿、愛しているわ……何時までも……＞

私の呟きは光と共に風に乗って消え去り、風の吹きぬけた空間に優しく彼女の声が響く。

その瞬間、まるで何かの封印が解かれたかのように、あたりは一気に明るく輝き、枯れて萎れていた草木がみずみずしく葉を茂らせた。

「こ、これは……一体？」

燿君の声を響かせるバラ園は、色とりどりのバラが咲き始める。

その様子をボンヤリとした視界で確認していた私だったが、輝き始める庭の中、硬い石の上に体が当たるのを感じて、意識を失った。