アナタがいたから…

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

侘瑠火 10

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重たい空気は東の方から流れてきて、カイルや鬼龍王の兄弟、そして私の周りを覆う。
「何だ?何が起こっている?!」
枉君が驚きながら言えば、その重たい空気は私たちからはなれ、カイルにだけまとわりついた。
「全く、何百年経とうとも変わりませんね。そのように敵をからかって身を滅ぼしても知りませんよ」
涼やかな声が空気に乗って聞こえ、フフンと零凛は笑う。
「アナタが来てるって分ったからやった事よ。アナタが気づいてなくて、きてくれないのなら、こんな危ない事しないで、キチンと話し合いで解決したわ」
「話し合い……ですか?」
「なによ、不満?」
「アナタの話し合いは大抵話し合いじゃないですから……。ふぅ、ま、私の事を信頼されているのは嬉しいですが、このような態度をアナタがとると複雑ですね」
声は苦笑いをするように零凛に言うと、さらにカイルに向かって言葉をかけた。
「さて、貴方はどうしましょうか?」
「……クッ、貴様……アーリーか」
「おや?良く分りましたね」
「異質で巨大なこの力……今の世で持ち合わせているのはアーリーしか居ない。かつての光麗と共に居た7賢人の1人」
「フフフ、意外に有名なんですね、私は」
「我らの術に落ちる事無く、更に我等の攻めをも未だ結界でふせいでいる者を知らぬヤツが侘瑠火に居るはずが無いだろう」
「なんとも敵に褒められる事ほど嬉しい事は無い」
クスクスと笑うアーリーの声にカイルはギリッと唇を噛み締めて零凛を睨んだ。
「今は退こう。しかし、我等は必ず光麗を手中にする」
そう言いながらゆっくりと体を暗闇に溶け込ませていくカイルにむかって飛び出した燿君が叫ぶ。
「凛は渡さない!」
「若造が。渡す渡さないの問題ではない。そうなると決まっているんだよ」
「貴様!」
カイルの何かを含んだような笑顔に怒りを全身に表した燿君が再び炎の玉を投げつけたが、玉はアーリーが発した空気の膜に弾かれる。
「ククク、残念だったな……」
カイルは笑い声をのこして、闇に姿を消し「クソッ」という燿君の声が聞こえた。
静かな闇の中、重たい空気だけがその場に残り、その空気を眺めていた零凛が呟く。
「……アーリー、ワザと逃がしたわね?」
零凛の言葉に兄弟達の「え?!」という驚きの声と、アーリーさんのフフッと言う笑いが聞こえた。
「おや、分りましたか?」
重苦しい空気がゆっくりと東の方へと下がり、かわって翡翠色をした空気がふんわりと伸びてくる。
その翡翠の空気に向かって零凛が言う。
「アナタがあんなヤツに遅れをとるわけが無いでしょ?ヤツが退くその空間を捻じ曲げ閉じることぐらいたやすいのに、それをしなかったって言う事は逃がしたってことじゃない」
「逃がしたって。何考えてるんだ?」
聖君が零凛とアーリーさんに向かって聞いた。
「今は彼と戦う時期ではないと言うことです。それに、彼は使いに過ぎない。彼自身をどうにかした所で何も変わりませんよ」
「……全く、ふんじばって色々吐かせれば良かったのに……」
「本当に変わりませんね〜アナタは。そういう粗忽で乱暴で無謀な所、直しなさいって言われたでしょうに」
「アーリーも相変わらず口煩いわね」
「ともかく、道を作ります。私の森にいらしてください」
翡翠色の空気が大きくアーチ状に連なって、一本の道を作り出す。
少々顔を見合わせていた兄弟達に零凛はにっこり微笑んだ。
「大丈夫よ。さぁ、行きましょう」
零凛がそういい、普通に何事もないかのように歩き始めようとしたことに、ハッとした私は、
「ちょ、ちょっと待てぇ〜い!!」
自分の中にあるもやもやを吹き飛ばすように叫んだのだった。



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