アナタがいたから…

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

東の森のアーリー 9

イメージ


「んっ……」
薄く開いた瞳に綺麗なアーリーさんの瞳が映りこんで、私の心臓は意図せずドキドキと早く鼓動し始める。
冷たい唇は私の上にやさしく存在して、まるで、私の体温を唇から吸い取るような、そんな感じで、私はその心地よさにゆっくりと瞳を閉じた。
(なんだか…気持ち良い)
体中の力が放出されるように抜けていき、私の体はアーリーさんに支えられて存在するだけ。
私は自分自身に力を入れようとも、体を動かそうとも思わず、ただ、このなされるがままの状態を受け入れていく。
私の頭の後ろに手が添えられ、私は力強くアーリーさんに抱きかかえられて、もう片方の手は私の胸を包み込んでいた。
隙間など無いというほどに体を密着させているにもかかわらず、アーリーさんの温かさを感じることは出来ない。
(アーリーさんは、本当に生きている人なの?)
そんな疑問が私の頭に浮かんだとき、私の胸を包み込んでいたアーリーさんの手がぎゅっと私の胸を掴んだ。
「ぅんっ!」
あまりの力の強さに重ねられた唇の間から私が声を漏らし、閉じたままで重たい瞼をほんの少し開けてアーリーさんを見れば、アーリーさんの瞳はとても優しく私を見つめ返す。
吸い込まれるようなその瞳の輝きはまるで麻酔のように私の体の痛みを和らげ、波のようにもまれる胸の痛みも徐々に無くなっていった。
(アーリーさんは一体何を?)
麻酔のようなアーリーさんの瞳を見つめたまま、アーリーさんに問いかけようと思った私だったが、瞼は私の考えとは反対にゆっくりと閉じられいく。
同時に体中が溶けていくような感覚に襲われ、体が水の上に浮いているようにフワフワとして、たとえ力を入れようと思っても入らないだろうなとそんな事を考えた後、私の思考は止まった。
「ゆっくりと、おやすみなさい……」
ぴったりとくっついていたアーリーさんのひんやりとした体も離れ、口から息が楽に出来るようになったとき、耳元でアーリーさんの声が響いて、ふんわりとしたベッドの上に寝かされる。
右頬に当たる柔らかい布からは、ストロベリーのように甘くおいしそうな香りが私の鼻に入ってきた。
何が起こっているのかわからないまま、私はなんだかアーリーさんの魔法に掛けられたように、ベッドから起き上がることも瞳を開けることも出来ず、フゥと息を吐いてボンヤリトした感覚に身をゆだねる。
「零凛……」
徐々に思考が沈んでいく中で、私の耳には涼やかに響くアーリーさんの声が聞こえてきた。
「アーリー、すまない。お前をこのような牢獄に閉じ込めてしまって……」
「何を言うのです。私は自ら望んでココに身を置いたのです」
「アーリー……」
「それに、アナタがいない世界自体が私にとっては牢獄も同じ。同じ牢獄ならばアナタに再び出会えるかもしれない牢獄のほうがましです」
静かなアーリーさんの声に、申し訳なさそうな零凛の声が響き、二つの吐息が重なる。
チクリと私の心にとげが刺さったような痛みが走り、私の目からは自然と熱い涙が零れ落ちた。
それが一体何を表しているのか、それを考え、まとめる思考は私には残っておらず、2人の重なる吐息の気配を感じながら、私の意識は静かに沈んだ。






イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

応援ヨロシクです♪イメージ
inserted by FC2 system