雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

再会

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数日後。
会社での仕事の割合が少なくなり、私は明らかに会社の主要メンバーから外される道をたどっているのだと痛感している時、私の目の前に私を往なした男性が現れた。
それはとても突然だった。
職場にかかってきた内線で知らない名前をいわれ私は会社の入口にある受付に向かう。
「……ごめん、お客様って?」
「あ、アチラでお待ちです」
受付の女の子に聞いてチラリと視線を向けてみれば、待合室の椅子に腰掛けている後ろ頭だけが見えた。
急いで近づいて、声をかける。
「すみません、お待たせして」
「いや、かまわないよ……」
そういって私の方を見たその男性はあの時、携帯灰皿を差し出してきた私をいらつかせた男性。
「ど、どうして?」
「コレ、落としてたよ。僕もあまり出歩けないもんだから交番に届けることも出来なくって」
「あ、これ私の名刺入れ……」
「ごめん、中見ちゃって」
「ううん、ありがとう」
名刺入れを受け取りながら、私はこの数日間名刺入れをなくしていることすら分らなかった事に気付く。
それは、もう、名刺をやり取りする仕事をしていないと言う事で、フッと自分でも気づかず溜息をついた。
私に名刺入れを渡した彼は、スッと席を立って儚い笑顔を見せて「じゃぁ、それだけだから」と背中を見せる。
「あ!待って!」
私は思わず彼を引きとめてしまっていたが、彼は私の言葉を聞いているのか聞いていないのか笑顔で背中を見せて手を振り、去っていった。
もう会えないだろう。
そんな気持ちでいた。
当然よね、名前も住所も、彼のことを私は何も知らないんだから……。
でも、何故か彼のことを忘れることはなかった。
何処か分らない、初めて彼に会った時はただ、苛々していた自分に注意して、これ見よがしに笑顔を向けてきて嫌だった。
二回目に会った時、何気なくしなやかなその仕草に惹かれ、思わず引きとめた。
言葉にしがたい感情がわきあがってきていたから……。
アレから数ヶ月。
何気に私の足は少し遠回りになるにもかかわらず彼に初めてあった場所を通って出勤するようになった。
会えるとは限らないし、どちらかといえば会えない確率の方が高い。
何事も合理的に。
それが心情で仕事をしてきたし、生活もしてきたのに、何をやっているんだろう。
そう自分自身に呆れながらも、それでも毎日その道を通っていた。
数ヶ月経ち、年も変わって、新年の雰囲気も落ち着いた頃、珍しく雪が降った。
年末に降ることは良くあったが、年が開けてからと言うのは珍しい。
「……雪か。今日は積もるのかしら?」
ヒールのついたブーツを履いてきた事を少し後悔しながら呟いた私の耳に、しなやかで優しい声がしみこんできた。
「今日は積もらないよ……地面が温かいから」
「……そうなんだ」
水に水滴を垂らしたように、言葉の波紋が私の耳に広がって、私はそれだけで誰なのか分ったし、その人が今どんな風なのかも手に取るように分る。
だからと言うわけでは無いが私は彼の顔を見ることはしなかった。
ううん、見れなかったと言うほうが正しいかもしれない。
きっと、ドキドキと大きく鼓動し始めた心臓が私の顔を赤く染めていたから。

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