雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

体温

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「そういえば、僕も聞くの忘れてたな」
不意に背中からかけられた言葉に、声に、私の心臓はドクンと大きく跳ね上がる。
凄く聞きたかった声、凄く待っていた声。
すぐに振り返ることが出来なくって、俯いて私は自分の両手を心臓の前に持ってきてキュッと握り締める。
ただ声を聞いただけなのに私の鼻はツーンと痛くなって、その感覚が涙腺を刺激し、思わず涙が出そうになった。
(や、やだ……恥かしい)
必死で鼻から冷たい冬の空気を入れては出して瞼を閉じ、必死で涙を堪える。
ハタチも等の昔に過ぎて、社会人をしている女が道の真ん中で、声をかけられただけで涙するなんて、格好が悪すぎる。
でも、こんな事初めてで、私はかなり戸惑っていた。
どうして自分がこんなになるのか分らず、必死で理由を探す。
2週間会えなかったから?
約束がはたされたから?
どの答えも合っているようで違う様な気がした。
彼に背中を向けて、胸の前で手をギュッと握り締めたまま肩を丸めて小さくなっている私。
返事をしなきゃ、早く振り返らなきゃ、そう思っているのに、体が全然動かない。
(どうしよぅ……どうしたのかしら……私の体)
焦れば焦るほど、涙は遠ざからないし、体は固まる。
「今日も、寒いね……」
頭がパニックになりかけたとき、私の背中が、肩が、体全体がふんわりと温かいものに包まれ、耳元で優しい彼の低い声が聞こえた。
私の顔の左横から白くなった息がフワリと揺らめいて、私は黙ってコクリと頷く。
「声、聞きたいんだけどな」
そういわれて私の心臓は益々暴れ、鼻の奥に再びツーンとした痛みが走った。
返事をしたくても出来ない。何を言えばいいのかも整理がつかない。
「みぞれ、暖かい」
【みぞれ】彼に呼び捨てにされてドキンと緊張はしたけれど、ムカッとする事は無く、ただ、その声の響きが心地良い。
彼の両腕が私を離さないかのように体に絡み付いて、私は完全に彼の中にはまり込んだ。
「会えないかと思った……」
やっと出た私の言葉と一緒に私の目からは我慢しきれなくなった涙が零れ落ちた。
ホロホロと出てくる涙は止めようと思っても止まらない。
そんな私の様子を後ろから抱きしめていた彼は私を包み込んだまま、道の端へと移動して、私を自分の方へ向け胸に泣きじゃくる私の顔をうずめさせた。
私が彼の胸に額をつけて、腕をキュッとコートの中の彼の体に回してしがみ付けば、彼は自分のコートで私を包み込んだ。
スッポリ埋まった私は、頬がピリピリするほどの寒さなのにとても温かくって、彼のほのかなコロンの香りの中にいた。
とても不思議な、フルーティな香り。
私の中での男性の香りといえば、もう少し男っぽくって、少ししつこい感じ。
でも、彼の香りは何時までもソコに居たくなる様な、男臭いしつこさなんて全く無い香り。
巻きつけられたコートの上から感じる彼の腕の強さにドキドキしていた。
「フフッ、2人でこうしていると全然寒くないね」
彼の言葉に、私はただ頷いて返事をする。
言葉を出せば、少しおさまりかけた涙がまた溢れ出そうだったから。
「ごめんね」
彼が不意に私に謝ってきて、私は驚いて彼を見上げた。
ニッコリ微笑む彼は少しかがむように私の頬にそっとキスをする。
フワリと彼の吐息が頬にかかって、柔らかい、しっとりとした唇が私の頬をとらえ、私は体を固め、ドキンと胸を鳴らした。
彼は私の頬に唇を少しつけたまま唇を動かす。
「このところ、ココを通れなかったんだ」
「ぅん……」
彼の息の熱さが私を緊張させる。
優しく、低く響く声も。
グイッと自分に私を引き寄せて離さないといわんばかりの彼の腕も。
私の背中に回される彼の腕に力が入れば、私も彼を放したくないと腕に力を込める。
2人が近寄れば頬にあった彼の唇は私の耳元へと移動して、息がかかると私は小さく「ンッ」と声を漏らしてしまっていた。
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