雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

私は私? 2

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何時だっただろう。
仕事人間になる前、私にだって何人かの恋人と呼べる存在の人がいた。
大学の時、とても好きだった彼の為に、髪の毛を伸ばし、彼の好きなミニスカートを冷え性なのに頑張って穿いて。
<彼の為……>そう思って。
そうして自分を押し殺し、彼好みの女に、彼女になろうとしたけれど、結局私は捨てられて、彼は別の彼好みの女の人のもとへと去っていった。
新入社員のとき、優しくしてくれた先輩に私は夢中になり、それがいけない関係だと分っていても、不幸になるだろうってわかっていても突き進んだ。
<今の自分の思うままに……>そう言い聞かせて。
でも、それも結局は私の敗北。私は捨てられるたびに男の身勝手な言い分を聞いて、男の勝手さに呆れた。
ううん、私も十分勝手だったのかもしれない。
『君だけが僕の理解者だ』『今の僕には君しか居ないんだ』
そんな言葉を信じて、別れてもまた電話がかかってくるかもしれない……。私のところにやってくるかもしれない……。
馬鹿馬鹿しい甘い事を考えた。
結局はそんな事、一度たりともなかったんだけど……。
私に未練があるだけで男には未練なんて無かったんだから当然かもしれない。
けど、分かれた時はその未練にすらすがってしまっていた。
情けない……。
だから私は強くなるんだって。男を利用して、見返してやるんだって。
そうして、もう何年走ってきた。
「驚きだわ。忘れたと思っていたのに、もう無くなったと思っていたのに、まだ、甘ちゃんな私がいたのね」
彼に出会ってから、私は私じゃなかったようなそんな気すら今はしている。
彼の言葉に踊らされるなんて私らしくない。
「そう、私らしくないわ。私らしく……」
そう呟いた私は、どうしたのか自分が自分らしいと言う言葉の意味が判らなくなりかけていた。
何だか疲れているわけでもないのに体の重さを感じながら風呂場に入った。
休みの日以外は殆どシャワーで済ませる。
冬はそれなりに冷えるけれど、湯船にお湯を溜めたりする時間を考えればシャワーでサッサと済ませて寝てしまうほうが一番良い。
カランを捻って、暫く、氷のように冷たい水からお湯へ変わっていけば風呂場はたちまち温度差で湯気に包まれる。
足から腕と冷えた体をお湯で温めてからシャワーヘッドを壁のフックに引っ掛け、そのまま、雫の落ちてくる下に立った。
頭から被ったお湯は髪の毛をぬらし、無数の小さな滝になって下へと落ちていく。
ボンヤリと床に落ち、排水溝へと向かって流れるお湯の流れを眺めて私は考えていた。
【自分らしい】って一体何なんだろう?
【変わったんじゃない】ってどう言う事?
【私が戻った】って何?
グルグルと頭の中を回る自分への質問に答えてくれる人は居ない。
私の中にあるだろう、いろんな【私】も答えようとはしなかった。
「……何やってるんだろう。私」
フフッと情けなさに思わず笑いがこぼれる。
そんな質問、幾ら自分に投げかけても答えが出るものじゃないって分っているくせに問いかけている自分が可笑しい。
フーと大きな息を吐いて、いつも通りに体を洗い、適当にバスタオルで体を拭いた後、バスローブを羽織ってエアコンで温まった部屋のベッドに横になった。
大きく腕を開き大の字になって天井を見上げれば、そこにはいつもの自分の部屋の天井がある。
変わらない天井。
「私は……変わってない?それとも……」
体がいつも以上に重くって、考えれば考えるほど頭の中が固まっていくようで。
でも、固まるだけで動いている頭。
いっその事真っ白になってくれればいいのに……そんな事を考えながらゴロリと寝返って、顔を枕に埋め枕に向かって溜息をついた。
「……疲れた」
ただ布団に乗っているだけの体なのに、その体は布団に飲み込まれていくような感じで、それが何だか心地よくって私はそのまま瞳を閉じた。


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