雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

彼と私の関係 1

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一体、彼は誰なんだろう?
食器棚にもたれ掛かって、ガスコンロの青い光を見つめ、私は自分の記憶をたどる。
昔の事。
毎日の忙しさもあって、振り返るなんて事しなかったことに今更ながら気がついた。
子供の頃、両親の事、友達の事……会社の事。
ゆっくりと、そしてボンヤリと思い出すほどに意外と自分の記憶はあるんだと自分自身で感心した。
しかし、幾ら思い出そうとしても彼のような人は私の記憶の中に存在しない。
……でも、今日彼の口から出てきていた言葉を聞いて、私には彼が私を知っているようなそんな気すらしていた。
【相変わらずだなと思って】
そう、私は昔っから片付けが嫌い。
嫌いと言うより、うまく出来ないって言ったほうが正しいかも?
片付けようと思って一生懸命家っても結局、物が移動しただけとか、押入れに詰め込まれただけとか……根本的な片付けとはちょっと違って、片付けしている最中も別のことに気が取られれば、それに時間がかかって、中途半端で終わってしまう。
1人暮らしになって、口うるさく「片付けなさい!」って言う人がそばに居ない状況では私の部屋は散らかり放題となるわけで。
もちろん、外でそんな素振りを見せるはずも無い。そこはね、ちょっと見栄っ張り。
だから、片付けが不得意な私の事を「相変わらず」何て形容する時点でそれなりの知り合いってことになってしまう。
(子供の頃会った、とか?……だとしたら顔も変わってるから分らないのかもしれない)
そう結論付けながらも、何だか納得がいかないのは事実。
コトコトと温まってきたお粥の音に、床に手をついてゆっくり立ち上がり、お椀に卵の入ったとろりとしたおかゆをよそう。
ふんわりと見ているだけで温かくなるような湯気がお粥からのぼって、カツオのいい香りが部屋に広がる。
リビングの小さな机に座り、そっと手を合わせ呟くように「いただきます」と言った。
どうしてだろう?風邪を引いたせいだろうか?
いつも食事をする時にいただきますなんて言わない。
実家に居た時は言うのが当たり前だったし、言わなきゃ母親に小突かれた。
でも、1人暮らしをするようになって、食事も1人で食べるし、食べるものも出前かスーパーで買って来た出来合いの品。
いつの間にか、いただきますの一言を言わなくなってしまっていた。
(……不思議。今日は何だか自然にでてきた様な気がする)
いただきます……それがとても心地いい。
彼が作ってくれたこのお粥の美味しそうなこの香りのせいかもしれない。
(そういえば……)
随分昔、「いただきます」「ごちそうさま」を言わなかった時、お祖母ちゃんに「食材を作ってくれた人、育った食材、そしてこの料理を作った人に対する感謝の礼儀だ」って怒られた事があったっけ。
そんな事、ずっと忘れてた。

一口、卵の入ったふんわりと優しい味のするお粥を口に運ぶ。
温かいお粥は私の口から喉へ、何処を通っているのか分るほどに内側から私を温めていった。



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