雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

むかし、むかし 2

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「そんなところ見られてたんだ……恥ずかし〜」
過去のことだから気にすることはないんだけど、女の子らしからぬ態度を見られていたんだと思うと恥ずかしくて俯けば、フフッと笑う彼の声がする。
「はじめは元気だなぁ〜ってそれだけで見ていたんだけど、そのうちその子が目の前を通るのが待ち遠しくて、登下校のときは必ず君を見ていたんだ。ううん、目が勝手に君を見つけてた」
「私、そんなに騒いでた?」
「ううん、そんなことはなかったけど、君は誰よりも表情豊かで喜怒哀楽がすっごく顔に出てて、僕は羨ましかったのかもしれない」
「羨ましい?」
「そのころの僕は外に出ることもできず、毎日同じことの繰り返しだったから、そんなに表情を変えれる事が羨ましかったし、毎日、今日はどんな表情だろうって楽しみだった。君に何があったのか想像するのも楽しかったし」
耳元でささやかれる彼の告白に私の心臓はドキドキと収拾がつかないほどに暴れ始め顔は熱くて、なんだか立ち眩みのような状態になりそうでまわされている彼の腕にぎゅっとつかまる。
「じゃぁ、私は貴方のことを知らなくて当然ということ?」
「そう、君が僕を知らなくても当然。僕の片思いだったから」
肩にかかる彼の頭の重みが少し心地よくて、私はゆっくり体を彼に預け始め、片思いという彼の言葉に胸の奥がキュッと締め付けられるような気がした。
「片思い…だったら出会った時でも、それ以外に会ったときでもそう言ってくれればいいのに。私、ずいぶん悩んだのよ」
少し頬を膨らませてそういえば、彼はますます私を自分の胸の中に閉じ込める。私の体温を確かめるように抱かれれば、私もまた、彼の存在を確かめるように体を預け、回された腕をしっかりとつかんでいた。
「君に…僕と同じ思いをして欲しかったのかもしれないな。だって、数年ぶりに見つけた君はやっぱり元気で弾けてまた何処かへ行ってしまいそうだったから」
「そんなこと…あの時の私は中学のような私じゃなかったわ。私を認めようとしない回りの人間にイライラして、雑踏の煩さも鬱陶しくて、何もかもが嫌になっていたんだもの」
「嫌になれるほど、イライラできるほど生きていることが羨ましいんだ」
「え?」
彼の小さな呟きに私は疑問の返事を返したけれど彼は答えることなく、そのまま黙り込こみ、その沈黙は高鳴っていた私の心臓のドキドキを不安の色へと染めていくには十分だった。私は彼の表情を見ようと重みのある肩の方へ顔を動かす。
彼は少し遠くを眺めるような視線を前方に向け、先ほどよりも顔色が悪くなっているようなそんな気がして、私は自分に絡みつく彼の腕をゆっくり解いた。



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