雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

むかし、むかし 3

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体の向きを変え、彼を目の前に私は両手で彼の頬を包み込む。
「…大丈夫?」
真っ青な顔に思わず出た言葉だったが、彼はその言葉に少し悲しげに、そして薄く微笑みを浮かべて頷いた。
本当は彼に「何処か悪いの?」って聞きたかったけれど、薄く美しいグラスのように少し叩いただけで壊れてしまいそうな笑顔を目の前にしてその質問はできない。
私の両手に重ねるように置かれた彼の手と、頬から伝わってくるのはとても冷たい彼の体温で、不安は色濃く私の心を締め付けた。
(どうしよう、何処か体が悪いのかもしれない。何処かの店に入った方が…)
私がそう思い始めたとき、彼が私の頬に優しいキスをして、そのまま私を抱きしめると耳元で小さく呟く。
「少し、疲れたかな」
「平気?」
「うん、大丈夫。でも、もう帰らないと」
「あ、そうね」
帰らないとと言うその言葉に一瞬「嫌だ」と言いそうになって、あわてて飲み込んだ。
そんな女子学生のような我侭、今更この年になって言いそうになるなんて思いもしなかったから言いそうになった自分自身に驚く。
フゥとため息を一つつけば、彼がクスッと笑った。
「じゃぁ、送っていこうか」
「え?い、良いよ。一人で帰れるから」
「ダメ、ちゃんと帰ったか見届けないと僕が不安だから」
彼の微笑みは少しズルイ。優しくてそれ以上何もいえない雰囲気を出すから言葉の通りに肯定してしまい、私は少し口を尖らせた。
そんな私の肩に腕を回して歩き始める彼は少しその体重を私に預ける。
私に凭れ掛ってくる彼の体重がそこに彼がいるんだとちゃんと示しているようで彼の体に腕を回して彼を支えた。
電車に乗っている間も、座ることをせずに2人、支えあうようにドア近くでたたずむ私たちを他の人は恋人だと思うだろうか?
好きだと言って無ければ言われてもいない2人だけれど、どうしてだろう?こうして傍にいるととても温かくて、お互いの体温を通して好きだと語り合っているような気さえしてくる。
私をふわふわ少し幸せな気分にしてくれる感覚のまま自宅にたどり着いて、玄関に入った瞬間だった、ズンと彼の体重が私にのしかかるように重くなり、私の体をずるずると滑り落ちていった。
「え?!」
あわてて支えたが、支えきれずに私は玄関に座り込み、彼は胸の中でハァハァと荒い息を吐く。
見る間に青くなる彼の顔色にただ事ではないと感じた私はなんとか彼にベッドまで歩いてくれるように頼んで、彼をベッドに寝かせ、薬箱をもってこようとベッド傍を後にしようとした時、私の手首を強く彼が握った。



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