雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

出会ったからこそ 1

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「大丈夫、大丈夫だから…」
痛いほどに強く私の手首を握って消えそうなほどに細い声でそういう彼に私はドクドクと心臓が鼓動し始め、不安に押しつぶされそうになる。
彼が目の前から居なくなるようなそんな不安が胸を貫いて、強く握っている彼の手を振り払った。
苦しみ表情の中に悲しそうな様子が見て取れて、胸がチクリと痛んだが電話の受話器を握る。
「救急車、呼ぶから」
私の言葉に彼は観念したかのように大きく息を吐いてジーンズのポケットから折りたたまれた薬の袋を取り出した。
「何?薬?」
「とりあえず、それを飲めば大丈夫だから」
「ほ、本当に?」
力なく頷く彼をその場に台所へ。
ガラスのコップに冷蔵庫から取り出した水を注いだが、その手は震えていて、自分でもこんなに動揺するなんて久々でビックリしつつ、ベッドへ戻って彼のすぐ横に腰を下ろして彼を引き起こした。
カプセルと錠剤の薬を飲んだ彼は「少し休ませて」とだけ言ってすぐにベッドに横になる。
心配で何度か受話器をとろうとした私だったが、荒かった彼の息も薬を飲んで暫くすれば静かに寝息を立て始めたので少しホッとして彼を起こさないように寝室を出た。
寝室の扉に背中を預けた私はそのままズルズルと床にへたり込む。
両手を握り締めて膝の上に置きゆっくり何度か深呼吸をすれば、やっと心臓のドキドキも収まってきた。
「…でも、このままじゃダメよね」
彼の持っていた薬袋をみてみれば、そこには薬を処方した薬局の住所が記されてあって、私はバッグを持って外にでる。
袋に書かれている住所を確認しながら私は出かけた。
きっと、彼に説明を求めても彼は答えてくれそうになさそうだし、何より、彼は私には知られたくないと思ってる様子。
でも、私はそれをそうねと納得している事は出来ない。
知っておきたいし知らなきゃならない事のような気がしていたから。
彼が目を覚ます前に戻ってくれば平気だろうし、目を覚ましていても買い物に行っていたといえば大丈夫だろう。
それに、本当に家には何も無くて買い物にはいかなきゃならなかった。
私の家のある場所から一回電車を乗り換えて、薬局のある場所にたどり着き、周りを見回してみれば、そこには洋館風の少し洒落た小さな診療所が一軒。
辺りに病院が無いからきっとこの病院が薬の処方箋を出したのだろうと休診中の看板のかかったドアに手を伸ばした。
てっきりしまっていると思っていた扉は少しの力で軽く開き、ギィーと少し鈍い音を立てる。
ドアから頭だけ差し込んで覗いてみれば、消毒薬の香りが充満する落ち着いた何だか懐かしいような待合室が目に入った。



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