雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

出会ったからこそ 2

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鍵はかかってなかったのに、誰も居ないのか静まり返った病院に一歩足を踏み入れて、ドアを閉める。
大きな振り子時計の音と自分が歩いて発する床がきしむ音。
消毒の匂いがココは病院だと言っているが、まるで様子は閉院したと言っているよう。
診察室と書かれたふるい引き戸の前まで来ると部屋の中から声がかけられた。
「翔坊、遅いぞ。早く入れ点滴をする」
低く熊のうなり声のような迫力のある声に引き戸を開けようと伸ばした手を一瞬とめる。
しかし、彼の名前を呼んだその声に思わず声が出てしまっていた。
「やっぱりどこか悪いんだ……」
「…誰だ?!」
私の呟きに中から聞こえた声の主が叫び、ドスドスと近づく足音がしてすぐにドアが勢いよく開く。
翔より頭1つ分ほど背が高く、横幅も大きいその巨人を見上げた私はアウアウと言葉を発することなく口を動かした。
そんな私の存在に数秒後、気がついた巨人はゆっくり私を見下ろす。
「ん?ちびっ子が来る所じゃないぞ。どこから迷い込んだ?」
「あ、ドアが開いていたので。そ、それに私、大人です」
「ふん、良い大人が開いていたからと忍び込んでくるのはどうかと思うが」
「す、すみません」
「何か用か?ココは特定の人しか利用しないようなろくでもない診療所だぞ」
自分の病院だろう場所を「ろくでもない」と言ってしまう巨人に圧倒されながら、ゆっくり翔が持っていた薬の袋を取り出し見せた。
「これを見てきたんです」
「……ほぉ、これをどこで?」
巨人の瞳に何かきらりと光るような感じで表情が変わり、私はドキッと緊張し、巨人が取ろうとした彼の薬袋を引っ込め背中に隠す。
じりっと一歩私が下がれば、男は半歩前へ出た。
(来るんじゃなかったかも…)
そんなことを思いながらも、男の迫力に負けじと顎をあげ、太い眉毛に細い瞳を見返す。
「しょ、翔が持ってたんです」
「…嬢ちゃんは翔坊の知り合いか?」
「し、知り合いと言えばそうだけど、違う感じも…」
しどろもどろに言う私にハァと大きなため息が聞こえ、巨人は再び診療室の中に入り、中から「とりあえずこっちに来なさい」と声がした。
このまま逃げても良い状況ではあるけれど、私はどうしても翔のことが知りたかった。
震える足に無理やり命令して診察室に入れば、少し温和な笑顔を私に向けて、診察室にある丸椅子に座るように進められる。
「ハハハ、まぁ、俺の見た目にビックリするのもわかるが、獲って食いはしないから安心して座れ」
恐る恐る診察室に入ってくる私を見て、豪快に笑ってそう言った男は薬を出すように私に言った。




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