雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

出会ったからこそ 3

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少し握り締めてクシャクシャになった薬の袋を男に渡せば、男はハァとため息をつく。
「全く、薬だけ飲んでしのいだといった所か」
「あ、あの、しのいだってどういうことですか?この薬飲めば大丈夫なんでしょ?」
「何だ、翔坊はそういったのか?」
「はい、大丈夫だって。でも、私、気になって」
「なるほど、翔坊が寝ている間に探偵ごっこと言うわけか」
「そ、そういうわけでは……」
無いといいかけて、口ごもってしまった。
結果、そういうことになっているのだから、探偵ごっこをしたつもりがなくても同じこと。
何だか否定するのも肯定するのもバツが悪くて、悪戯して、どう言い訳したものかと悩む子供のように口をへの字にしたまま、下を向いてしまう。
「ククク、なるほど、分かったぞ。さては嬢ちゃん、みぞれって言う名前だろう?」
楽しそうに笑う男の口から出てきた自分の名前に驚いて男の顔を見れば、男の顔はどこか優しい雰囲気を出していた。
首をかしげて男の言葉を待っていると、立ち上がった男は古い使い古されたような黒い鞄に丁寧さのかけらもなく、道具を詰め込む。
完全に私の存在を無視したような、というか、自分勝手に用事を始めた男にあっけに取られ、ポカンとしていれば、チラリと視線がこちらに戻った。
「大丈夫か?お前も診てやろうか」
「は、はぃ?わ、私は居たって健康ですけど」
「そうか?アホ子に見えるぞ」
「ア、アホ?!初対面にアホ呼ばわりされる覚えはないですけど」
「ククク、だったら、言いたい事や聞きたいことは口に出せ。アホ面してても教えてはもらえないぞ」
まるで私の心の中を見透かしたような物言いに少しムッとしたけれど、それは恥ずかしさから来るもので不思議と嫌な気分はしない。
会社で同じくらいの年齢の上司や男共に偉そうな口調で言われれば、胸の辺りが重く、もやもやして苛々するのに。
熊みたいな、なんとなく大きな着ぐるみを思わせる男の容姿のせいだろうか?
「あの、聞きたいことは山ほどあるんですけど、とりあえず教えてもらいたいことが」
「あ?なんだ?」
「なんて呼べばいいですか?何故か分からないけど、私の名前は知ってらっしゃるようですけど、私はしらないので」
「おぉ、言われてみればそうだな。翔坊に言われて来たんじゃないなら知るわけがない。俺の名前は笹岡大二郎。診療所に来る連中は大先生とか熊先生って呼ぶが、好きなように呼んでくれてかまわないからな」
「熊…、名前に熊がないのに熊って、やっぱり見た目?」
「だろうな、いつの間にか呼ばれていたから確かな由来は分からんが、そうとしか考えられんだろう?さて、後は道すがらと言うことにしようか」
ワッハハハと大きな声で笑った熊……ではなく、大先生はバチンと大きながま口を閉じて、鞄を持つと、私の手をとり、引きずるように診療所をあとにした。



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