弟「司」 2
「全く、アイツはどうして、あぁなんだ?」
「同じように育てたつもりだったんだけど、育て方を間違えてたのかしら?」
私の居なくなった食堂ではきっとそんな会話が繰り広げられてる事だろう。
何時だってそうだった。
私は出来ない子で、手のかかる子。
司は何でも出来て、手のかからない子。
私は別にそれをひがんだ事もないし、そう言って育てる親に怒った事も無く、ずっとそれでも良かった。
司が私の傍にいてくれるならそれで……
なのに、アイツは自分で勝手に決めて勝手に出て行こうとしている。
「……イライラする」
呟いたのは言い様の無い重たい心に対しての感想。
自分の部屋に入って扉を閉めるとスーツ姿のままバサッと扉を開いて左側にあるベッドに体を沈めた。
モヤモヤとした意味の分からない感情が心に広がっていく。
それと同時に何故かホロッと一粒の涙が右目からこぼれる。
「……訳わかんない」
布団に顔を押し付けて呟いた時、扉の方に覚えのある気配が近づいたのを感じた。
コンコン……
私の部屋のドアがノックされた。
誰が来たのか?そんなこと考えなくてもスグに気配で分っていた。
ゆっくり起き上がった私は扉の鍵をカチャリとかける。
「……どうして鍵をかけるの?」
その声は司。
少し溜息をつきながら言う司の姿が目に浮かび私を更に苛立たせた。
「何の用?今から化粧も落として、寝ようと思ってたんだけど……」
「お風呂も入らずに?」
「……明日の朝、早起きして入るわよ」
「怒ってるの?俺が家を出るって言い出したから……」
「どうしてそんなことで怒らなきゃならないのよ……」
「……そう、怒ってないなら……いいけど……」
「……」
怒ってるのか?そう聞かれて「そうよ!」とは言えなかった。
怒っているわけではないって思う。でもイライラしていたのは事実。
この感情が何なのか分らないけれど、司の態度が無性に私をイライラさせていたのは確かだった。
扉の向こうに司が居る。
気配で何処にどう立って居るのか、私には分る様な気がした。
そっと、扉に手を当てて更に司の気配をたどろうとした時、扉の向こうから司の声が響く。
「……それじゃ、おやすみなさい」
「…………おやすみ」
私の手は扉に触れる事無く空中でぎゅっと拳を作った。
気配の無くなった扉に額をコツンとつけて寄りかかった私は思わず呟いていた。
「ばか……」
自分に向けていった言葉でもあり、司にぶつけたかった言葉でもあった。
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