疑弟〜ギテイ〜

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

花梨の心 1

イメージ



母さんからの電話だとわかっても出る気にはならず、私はそのまま、留守電に吹き込まれる内容を聞く。
「司の事だけど、一応ね家庭教師の先生には辞めてもらったわ。それでね、やっぱり司にも話した方がいいと思うの。母さん1人だと心細いから花梨、一度帰って来れない?また、帰ったら電話ちょうだい」
電子音が鳴り響いて、電話は終わった。
「……そう、辞めさせたんだ」
呟く私にはホッとしたような、でも、なんだかモヤモヤしたままと言った変な感情が湧き上がる。
そして、司に会うと言う重苦しさが溜息を付かせた。
「電話……もう少し後で良いわよね。少し、休もう」
重たい体を少し引き摺るようにして、私はベッドに潜り込んだ。

ルルルルン……ルルルルン……
電話の音に目を覚まし、いつものクセで確認もせずに電話をとってしまった。
「もしもし……」
「あ、花梨?」
「……母さん」
「留守番電話に入れておいたんだけど……聞いてくれた?」
「うん……聞いたわ。辞めさせたのね」
「すぐにね、相手の先生と会って話したのよ。謝罪をして、自分から辞めると言ったわ。ただね、母さん司の事が心配で。家で会わなくても他でそう言う事をしないかって……」
「そうね、ありえるわね……」
「でしょ?まだ高校生なのよ。そんな事……興味を持つのはそうかもしれないけど、あんな事、母さんはして欲しくないのよ。ねぇ、かえって来れないかしら。出来れば早いうちに……」
母さんの心配して何日も寝ていないような疲れきった声に、帰らないとはいえなかった私は「分ったわ、今週末は無理だから、来週末帰る」と伝え、電話を切った。
受話器を置いて、私は溜息をつく。
「馬鹿ね……私って」
「今週末が無理」とっさにそういった自分自身の浅はかさにため息をついた。
別に予定があるわけじゃない、明日、仕事に行って週末を向かえ、いつも通り、遅くに起きて洗濯と掃除をして、この部屋でぼんやり過ごす。
いつもの週末を過ごすだけなんだから、帰ると、そういえばよかったのかもしれない。
でも、思わず「来週」と言ってしまった。
訳など無い。ただ、気分が乗らず、気持ちが重苦しかったのだ。
「タイミングが悪いんだ……母さんはいっつも」
先ほど、雄介にこの体を抱かれ、久しぶりに男性を感じ、女性になった。
体は何時までもその余韻を貪り、私は思わず1人で自分を慰めた。
そして、雄介に与えられた感覚を貪った先にあった、最後に叫んだ名前は司。
自分のこの体の、この気持ちの身勝手さに溜息が出るそのタイミングで帰省の電話をかけてくるんだから、思わず嘘をつきたくもなる。
でも、私の気持ちの整理もついていない状況で司に会うよりも、整理をつけた状態で会うのが良いかもしれない。
どんな言葉を言われても、どんな態度をとられても、姉として、大人として対応できるような気持ちを備えた状態で会うのが一番。
「……って、自分に言い訳してるのよね。結局は」
私は私自身に嘲笑して呟き、バスローブから見える自分の胸の谷間に未だ赤く残っている雄介のつけた印を指先でなぞった。
恐らく雄介が強く吸い付いたのだろう、触れると少しチリッとした痛みがそこに走る。
「雄介に抱かれて過ごしても結局は報われない。司を受け入れても先は見えない……」
そう頭で理解する為に何度も呟いた。
理解しなければならない、流されてはいけない……分っている。
でも、今私は雄介に滅茶苦茶に汚されたいと思い、司に私の全てを満たして欲しいと願っていた。


イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

ぽちっとクリック応援よろしくお願いします♪

inserted by FC2 system