くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

ゼロと言う女 8

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黒いロングコートを夜の風になびかせて歩く。
私に声をかける人は居ない。
夜の世界で【ゼロ】と言う女はとても有名らしいけれど、私と接触できる人間は限られている。
それは私が私自身を守る為でもあるし、相手にとっても自分の立場を守る為だから。
このあたりをうろついている【ゴロツキドモ】は私の顔も体も知らない。
そりゃね、私だってそれなりに化けてはいるのよ。
昼間の私と夜の私……。
気付く人は居ないでしょうね。
女は化けるのが、騙すのが得意だから。
男は騙されるのが得意だけれど。

私とのコンタクト方法はただ1つ。
私を知る人から私のポケベルの番号を知り、合言葉を言えること。
フフ、電話じゃない、メールでもない、携帯電話でもなければ、パソコンでもない。
私が使うのはポケベル。
時代が1つ古いなんて思ったでしょ?
確かに、携帯電話やメールの方がはるかに便利よ。
でも、ポケベルが私には一番あっている。どんな便利な機械より、便利な通信方法より、ポケベルこそが私なのかもしれない…そんな気がする。

どんなに明るい街の中に居ても、どんなに男に抱かれても、どんなにお金を貰っても……。
私の中には古臭く、不器用で、孤独……そんな空間が必ずあって。
私はそんな自分から逃げる為に夜の顔を持ったはずなのに。
夜の顔はそんな自分の空間を広げていくようなそんな気がする。
反面、そういう夜の顔こそが自分の様な気すらしていて、捨てるに捨てられずに居る。
【ゼロ】……。
名は体を表す。
私は自分をゼロと名乗ったその瞬間から、そこに向かって突き進んでいるのかもしれない。


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