くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

嶺という男 2

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一流ホテル。
案内を断わったけれど、何処から命令されたのか私の乗り込んだエレベーターにボーイが乗り込んでくる。
綺麗な制服に身を包み、薄く笑顔を向け「どちらまで」と聞いてきた。
それこそ、営業スマイル。
ラブホテル。
最近では露骨な言い方はさけて「ファッションホテル」「ブティックホテル」「ハッピーホテル」と言う言い方もあるらしいけど、そこでは空いている好きな部屋に誰に会う事無く入れる。
いつもと違う、いつも以上のホテルはやっぱり息苦しいわね。
私の様子をうかがう視線が私の返事を待っている。分ってるくせにさすがサービス業。
「……最上階まで」
「かしこまりました」
私の言葉に軽く会釈をして答えたボーイは最上階のボタンを押して背を向けた。
そんなに私は怪しい人物なのかしら?
見張りをつけなくたって、別に何もしないわ。っていうか、どちらかと言うと私がサレに行くんだけど。
きちんとエレベーターのボタンの前に直立し、客を見ないようにしているボーイ。
でもその気配は私を探ろうとしているのが、私を監視しているのが良く分る。
フフッと笑った私はエレベーターの一番奥の壁にもたれ掛かって腕を組み、ボーイに声をかけた。
「そんなに見張らなくても変な事なんて何もしないわよ」
「い、いえその様な事は……」
「そう?そうは思えないけど。……見張るなら、もう少し上手くやるのね。見張ってるって丸分りだもの」
クスクスと笑って言った私の言葉が終わる頃、エレベーターは最上階へ到着する。
黙り込んだまま、エレベーターのドアを開けたボーイにチップを渡して微笑み「じゃぁね」と視線を流した。
エレベーターを出れば、受付で聞いたとおり、2つのドアがある。
どうやら、そのままこの階全部が1つのスイートルームと言うわけではなく、真ん中で分けて2つのスイートルームが存在しているみたい。
向かって左のドアについた小さなチャイムのボタンを押込むと、ブーと篭った音が部屋の中で響いた。
カタリとドアの向こうで音がする。
私を呼びつけた人物がドアの前まで来たようだ。
「……誰だ?」
「人を呼びつけておいて『誰だ?』は無いんじゃない?」
中から私が思っていたより少し若い男の声がして、カチャリとドアが開く。
数センチだけ開かれたドア。
全く、呼びつけておいてこの態度っていかがなものかしら?せめて、招き入れるぐらいしてもいいんじゃないって思うんだけど。
数センチ開いたドアを少し不機嫌にグイッと開いて、中に入れば、ドアはひとりでにパタリと小さな音を立ててしまった。
部屋の中は思ったよりもずっと薄暗い。
ま、そういうことをする為に呼んだんだから当然かもしれないけれど、ベッドルームで無い部屋まで薄暗くする必要は無いんじゃないだろうか?
そして、ドアを開いてすぐ、リビングルームのように大きなテレビとソファーの置かれた部屋に人影は無く、ハァと溜息が1つでた。
人の気配がするのは隣の部屋から。出迎える気も無いのね。
一体私を呼びつけておいて、この態度。私を誰だと思っているのか。高級コールガールと思ってるんじゃないでしょうね。
ムッとする私は薄暗い部屋に置かれている豪華なソファーに腰掛け、失礼極まりないソイツが自分からコチラに来るのをまった。



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