くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

嶺という男 3

イメージ



カタリ。
物音が聞こえてきたのはそれから数分後。
高級なソファーだって言うのは分かるけど、座りにくくて仕様が無いと私がソファーを立って、帰ろうとドアに向かった時だった。
「帰るのか?」
低く、ハスキーな声が背中から聞こえ、私は振り返る事無く答える。
「あら、だって、歓迎してくれないんでしょ?だったら居る意味は無いわ」
「呼んだのは俺だ」
「そうね、呼んだのは確かに貴方よ。でも、貴方は勘違いしていない?私はコールガールじゃ無いわ」
「フッ、何処が違うと言うんだ?」
明らかに私を馬鹿にするその声に私は返って気持ちが静かになっていった。
この男もたいした事はない。
他の男と違うのは財力と富士山以上の高いプライドと言った所だろうか。
フーと溜息混じりに私は言う。
「何処が違うか…それはね、私は呼ばれたからって貴方の思い通りはならないと言うことよ」
「フン!娼婦が何を……」
「娼婦ですって?」
「そうだろう?体を売っている女、それは娼婦だ」
「そう、貴方は体を売る女を馬鹿にするのね」
「それだけしか取り柄の無い馬鹿な女を馬鹿にして何が悪い?」
「その考えこそ馬鹿だわ」
私はクルリと振り返り、男に微笑を向けた。
薄暗い部屋、大きな窓の下に広がる街の薄明かりが逆光のように大きな男の影を映し出す。
声からすればきっと若い。
私の目に映りこむ男の影はすらりと背が高く、少しがっちりした肩幅から、少々筋肉質なのかもしれないと思わせた。
コートを脱いで、男にゆっくりと一歩ずつ近づく。
「それしか取り柄が無いですって?それが取り柄になるなんて素晴らしい事だとは思えないの?本当の無能は世の中にゴロゴロしている。体を売れるだけの、その体に価値があるならそれは無能じゃないわ」
「体に価値があるだと?フン、屁理屈だな」
「そうかしら?女が体を売るのは買う男が居てこそ成り立つのよ?つまり、女を馬鹿にすれば、それを買い求めた男自身を馬鹿にすることになる。もちろん、私を買って私を見下す貴方は私以上に馬鹿ってことよ。そんな事も貴方はわからないのかしら?」
私は私の考えを冷静に、そして、少し目の前の男を馬鹿にして続けた。
「確かに、買う買われる、それは主従関係に似ているし、お金の為に言いなりになる女も居るわ。でも、私をそんな連中と一緒だとは思わない事ね。私は私の価値を決める為にお金を頂戴しているだけよ」
近づいていけば男の顔が徐々に見えてくる。
やはり若い。
今まで私の相手ではどんなに若くても40代だった。
私への報酬を支払う事ができるのはそれくらいの年齢のそれ相応の社会的地位のある男だけだったし、何より、その年代もしくはそれより上の年代の男は自分より若い男に私を紹介したりはしない。
鋭い目つきとオールバックの黒髪が30代かと思わせるけれど、この男は恐らく20代。
一流ホテルのスイートに泊まれる20代。親が相当立派なのかしら?
明らかに機嫌が悪くなっている男のすぐ横を通り過ぎ過ぎようとした時、私は腕を強く掴まれた。



イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

ポチッと応援よろしくお願いします♪
inserted by FC2 system