くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

嶺という男 4

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力任せに握られ、私は眉間に皺を寄せて男の横顔を睨みつける。
体の痛さで屈するなんて真っ平よ。
「ほぅ、生意気な目だ」
薄暗い中、窓の外の明かりに照らされている男の横顔は影が落ち、少し凄みもあった。
睨みつける私の顔をジッと横目で見下ろす瞳に向かって私は低く声を出す。
「痛いわ、放してくださる?」
「俺を馬鹿にする貴様が悪い。謝ってもらおうか」
この男のプライドは何処までも果てしなく高いのだと逆に感心していた。
自分の権力を振り翳して無礼だと自分が決めた事には相手が女、子供であろうと、もしかするとお年寄りであろうとも跪かせ詫びさせる、そんな男だ。
でも残念ね。私はそんな男に膝を折ろうとも、頭を下げて許しを請おうとも思わない。
「謝る?私が?貴方がの間違いでしょう?女の扱い方も知らない大馬鹿者は貴方なんだから?」
「女の扱いか……それくらい心得ている」
フンと鼻で笑って言うと、私を掴んでいる男の手の力は増し、私は自分の腕が折れるんじゃないかと言う程の力にクッと顔をしかめた。
「っ!……痛いって言わなかったかしら?」
「女の扱いは知っているが、生意気な女に手加減するほど紳士じゃない」
私が顔をゆがめるのを楽しんでいるのか、そう言い放った男はフッと笑う。
全く、どうしてこう、男は馬鹿なのかしら?
私にそんな態度をとれば私は挑んでいくって気づかない?
私は痛さに顔をしかめながらも口に微笑を浮かべて男に言った。
「生意気?フフ、それは褒め言葉ね」
「なんだと?」
私の態度と言葉に男はとうとう、その体を私の方に向けて、理解できないと言うような言葉を発する。
私も男の方へ向き直り、つかまれていないもう一方の手で男の横顔に平手をくらわした。
急な事にビックリしたのだろう、男は私を掴んでいた腕を放して、叩かれた頬に自分の手をあて暫く呆然とする。
前触れも無く頬を叩かれたんだから当然の反応。
クスッと笑って、私はそのままホテルの大きな窓へと歩いて行き、窓の外の景色を見つめる振りをしてチラリと自分の腕を見た。
くっきりと赤く、男の手のあとが私の白い肌に残っている。
「本当に、女を何だと思ってるの?」
私の言葉に答えは無く、絨毯の上を歩く音がした後、ドサリとソファーに腰を下ろしただろう音が聞こえた。
「貴様も、男を何だと思っているんだ?」
男の言葉に私も振り向く事をせず、フフッと笑って言う。
「そうね、色々思うことはあるけれど、一言で言えば動物だと思ってるわよ」
「動物か。正解であり不正解と言ったところか……」
「あら、不正解なんてないわよ。それが正解」
「その言い分から行けば貴様も動物と言う事になるな」
クククと笑った男の声。私の言葉の意図を読み取るのが早いこの男は恐らくとても頭がいい。
腕を組み、クルリと男のほうに体をむけ、背中を窓ガラスにもたれかけさせて私はニッコリ微笑む。
「貴様って言うのやめてくれないかしら。私はゼロよ」
「あぁ、そう聞いている。夜の街にフラリと現れる女【ゼロ】。一度会った者はその女のことを忘れる事はできなくなると……」
「フフッ、そんな風に言われてるなんてね、知らなかったわ」
嘲笑を浮かべて言う私の言葉を聞いて、男はゆっくり立ち上がり、私の目の前までやってくる。
「貴方も私を忘れられなくなるのかしら?」
ニッコリ営業スマイルで言う私の顎に手を置き、男はクイッと上を向けさせ、視線を絡ませてきた。




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