くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

嶺という男 6

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私の顎を下から押し上げる形で置いていただけだった嶺の手は、顎を掴むようにして私の顔を固定する。
本当にこの男は女の扱い方がなっちゃ居ない。
「さっきも言ったけど、女をそんな風に扱うもんじゃないわ」
「さっきも言ったが、生意気な女に手加減する程紳士じゃない」
あぁ言えばこう言う。本当にその言葉がぴったりな男。
「どうして、名前を知りたいの?」
怒りを表しながらも、その本題は自分からは決して言わない嶺に代わって私が聞く。
「どうして、名を教えない」
「知る必要は無いでしょう?」
「必要は無い?」
眉間のシワはより深く刻まれ、機嫌の悪さは今まで以上に膨れ上がっているようだ。
「必要と感じないといえば分る?一晩を共にして、それでまた会いたければ会えばいい。そこにその個人を特定する必要性はまったくと言って皆無だわ」
「俺は本名を名乗ったんだ、礼儀としてお前も名乗るべきだろう?」
「……それは貴方の中の常識であって、私の常識じゃない。何より、貴方が本名を名乗ったのは貴方の勝手じゃない。私がそれに付き合うことはないでしょう?名前も、常識も必要ない、私と嶺の間にあるのは、その体が必要か否か」
コレでもかと言う程の微笑みを嶺に向けて私が言えば、嶺は怒る事無くニヤリと口の端を上げて笑った。
「なるほど、そうか……では、俺の常識をお前に植え付けてやろう」
「なんですって?」
私が首をかしげようとした瞬間、キラリと嶺の瞳の奥が光り、乱暴に引き寄せられた私の体はそのまま軽々と持ち上げられて、嶺に抱きかかえられるように唇は嶺に奪われる。
持ち上げられた体の支えは嶺の腕だけ。背の高い嶺に抱かれれば私の足はブラブラとただ空中をバタ足する。
離れようと、もがくけれど、その腕の力は強く、また、踏ん張りどころもないため、私はされるがままだった。
私の唇の上を揺らめく嶺の唇はその態度とは裏腹に熱く、激しい。
頭の芯がとろけるようなその唇の揺らめきは、本人の言っていたように【女の扱いを知っている】のだろう。
ううん、違うわね、女の扱いは知らないけれど、女馴れをしているんだわ。
キスをしながらも瞼は開けたままの嶺。
(ムードも何も無いわね。そうやって人の反応を楽しむのかしら?)
ジッと私の瞳を見つめるその視線を睨み返せば、嶺は唇を少し触れる程度に顔を離した。
「名を言う気になったか?」
「幾らやっても同じよ」
「言わなければ言わせるだけだが?それでもいいと?」
「何のことかしら?コレ位のキス、私が経験して無いとでも?」
微笑む私の唇を嶺はゆっくり舌を伸ばしてなぞる。
上唇から下唇へと円を描くように舌を一周させた嶺はフイッとその顔を離し、私を横抱きにした。
(やっぱり男ね……私の唇を貪って、我慢できなくなったって所かしら?まぁ、元々そのつもりで呼んだんだろうし。そんな男でも相手にしてあげるわ……そして、私の体に溺れればいいわ)
私は既にこのとき、嶺に飲み込まれていたのかもしれない。
決して許す事の無かった口付けを受け入れてしまった私。そのことさえも、忘れるほど妙に挑戦的にそう思い、抵抗する事無く、嶺に抱かれ、その身をゆだねる。
どんなに偉そうにしても、どんなに理屈を並べても、結局、男の行きつく所は一緒。
穴に棒をつっ込んで、自分だけその快楽に酔って淫液を吐き出す。個人差が出るのはその回数ぐらいかしら?
そう、私は思っていた。
嶺が私を抱きかかえ、私をベッドルームへ連れて行って、他の男同様に私の体を弄ぶのだと思っていた。
だから、されるがまま抱かれていたのだけれど、彼はベッドの見えるドアの前を通り過ぎる。
(え?どう言う事?)
私が彼の顔を見上げれば、彼は私の考えを見透かしていたかのように私より先に私を見、私と視線がぶつかりニッコリ微笑んだ。
「どうした?」
ニヤリと、してやったりと言う顔をする嶺に少々イラつきを覚える。
「……別に。ドコに連れて行く気?まさか外なんていわないでしょうね」
「クク、まさか、初めての相手にそんな事。そこまで悪趣味じゃない」
(初めてじゃなかったらありうるっていう口調ね)
まるで自分の方が立場が上だという表情で彼が開けた扉に私はビクンと体を揺らした。





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