くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

欲と男と嶺 1

イメージ


安心はしたものの、状況は最悪。
部屋を出ることはできる。鍵はかかってないし、ご丁寧にこの部屋の鍵を嶺は置いていった。
でもそれは嶺が私が出て行けないということを見越してのことだろう。ココまでの事柄から見ても彼はおそらく酷く頭の切れる人物で正直な男。荷物を預かるといって実はこの部屋においてあったなんてことは絶対にないはず。
鞄がないということは財布もなく、化粧道具もないということ。服はずぶぬれで、ラブ系のホテルでもないのにこんなバスローブで外を歩くこともできない。せめて浴衣だったら少しは違ったかもしれないけれど、出た所で財布がなければ意味がない。
「全く、こんな男、初めてだわ」
大きなふわふわとしたソファーに横になって、つぶやき、ため息を漏らす。
今まで、男は溜まりに溜まった性欲の吐き出し場所として数多くいる女の中から私を選び、自分の好みのセックスをして、満足していた。
中には確かに紳士ぶった男もいたけれど、結局たどり着くところは同じところ。そりゃそうよね、そういう目的で私の体を金で買ったんだから。
紳士ぶっている男ははじめに「話をしようか」と言ってベッドに座って話を始める。教師なら私の身の上話、ビジネスマンなら私の仕事の話や金の話。
そうして話しているうちに数センチ離れていた体が私の体にくっついて、背後から私の肩を抱きしめ、そして、手が体を這い始める。
結局、男は私の胸をもみ、内股をまさぐって、ハァハァと荒い息を吐き始めるのだ。
でも嶺は違う。彼は紳士ぶっているわけでもなければ、紳士でもない。
私が欲しいと思っているのかいないのかもわからず、かといって私の中の概念の『男』というわけでもなさそうで、珍しくゼロの私は彼に対して戸惑いを感じ、それと同時に私は私の中に生まれている好奇心にも戸惑っていた。
あきれた男と頭の考えでは苛立ち、フンとはき捨てている。しかし、心の奥底のどこかで、彼を知りたいとも思い始めていた。
(……ダメよ。あの男はきっと危険。ゼロがゼロでなくなってもいいの?)
<彼こそが、零那を埋めてくれる存在かもしれない。彼を知って見るのもいいかもしれない>
頭の私が否定を言えば、心の私が希望をつぶやく。
そんな自分の気持ちに笑いすらこみ上げてきて、微笑みつつ私は顔をうつぶせた。
高級なソファーの高級なクッションは寝ている私の体を地面へと沈めていくようで、緊張が途切れたことで一気に仕事の疲れが襲い掛かり、そのしずんでいく感覚にあいまって私はその場で眠ってしまう。目を覚ましたのは部屋についているインタホンの音。何度と鳴らされる音に嫌々目を覚さました。
「…何か?」
「ルームサービスです。政木様からお電話がありましてお届けに参りました」
(細かい気配りって感じなのかしら?)
断ることもできるんだろうけど、ちょうどおなかもすいてきていたし、どうせ私がお金を払うんじゃないしとドアを開けて中に招きいれる。ちらりと私を見たボーイはルームサービスとは思えないほど豪華な食事をテーブルに並べはじめ、私はその後ろからその食事を眺めた。



イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

ポチッと応援よろしくお願いします♪
inserted by FC2 system