くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

欲と男と嶺 2

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「…ねぇ、これで一人分なの?多くない?」
結構広めのテーブルの端から端まで並べられていく料理の数に驚きながら私が言えば、ホテルマンは料理を並べながら答える。
「お一つの料理は一人前なのですが、ご注文された品数が多いものですから」
「私、こんなに食べられないわ。サンドイッチだけあればいいから後は下げて」
「申し訳ございません。政木様に食べられないと言われてもそのまま置いておくように言われておりますので下げられないんです」
何が目的なのか全くわからないが、料理の数は数十種類。ルームサービスのすべてのメニューを頼んだのかもしれないと思うほどの量の料理が並べられ、私はあきれ半分にソファーに腰を下ろした。
食事を並べ終えたボーイは私の横にやってくると嶺から渡すように言われたというメッセージを手渡す。

― 何もしていなくても腹は減るだろう?好きなだけ食べるといい。寝るときはベッドで寝ろ。俺は明日の夕刻に帰る。それまで必要なものがあれば注文していい。支払いは俺に回しとけ。

(…寝るときはって、何処かで見てるんじゃないでしょうね)
メッセージでも俺様な言い回しに渡された紙を放り捨て、ソファーの背もたれに背中をつけて体を反らせれば、目の端に人影が見え、ちらりとそちらに視線をした。見ればボーイが用事が終わったはずなのにその場に突っ立っている。
「まだ何か?」
「いえ、あの…」
私の問いかけに口ごもる彼。そして私もその彼を見て「あぁ」と納得した声を上げた。
「チップなら無理よ。私、今お金持ってないから。第一、ルームサービスにチップは不要でしょ?」
「え、あ、はい」
なんだか歯切れの悪い返事を返した彼は私の後ろに回り込み、置いてあるワゴンを片付け始める。スイートルームに泊まってる客がチップも払ってくれないっていうのは納得がいかないのかもしれないし、ルームサービスにチップが不要だと言う客もこのホテルでは珍しいのかもしれない。ま、日本でチップをあげる客なんてまずいないだろうしね。それに、私の場合、あげたくても本当に持ってないんだからしようがない。
(それもこれも全部嶺が悪いのよ。財布ぐらい置いていけっての)
私が文句を心の中で言いながら盛られているフルーツの中からイチゴを手に取り、口に放り込んだが、すぐに口からイチゴを吹き出してしまう。
突然、ボーイが後ろから私の胸を鷲掴みにして、ハァハァと荒い息を私の耳に吐きかけてきたのだ。
「あっ、ちょ、ちょっと……何を」
「そんな格好でいるそっちが悪いんだ…」
眠っていたこともあって、私のバスローブの前の合わせはとても浅く、胸は今にも零れ落ちてきそうになり、もともと少し丈の短いバスローブで足を組んでいるからもう少しで大切なあの部分も見えそうな格好。確かにね、そういわれれば私も悪いわ。
力任せに胸を揉んで来る彼の手に手を重ねて、瞳を流して肩越しに息を吹きかけてくる彼を見つめた。



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