くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

欲と男と嶺 6

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嶺と二人きりになった空間は息苦しく大きく深呼吸をした私は、嶺がかぶせていた上着に腕を通し立ち上がる。
「どこへ行く?」
不機嫌な嶺は後ろから私の肩をつかみ低い声でそう聞いてきた。
「私も失礼するわ」
「それはダメだ。第一そんな格好で外をうろつくつもりか?」
グッと掴まれている肩に指が食い込んで私は少し顔を歪める。本当にこの男は女を何だと思っているのだろうか?
少し斜めに振り返った私はグッと嶺に鋭い視線を浴びせる。
「いい加減にしてくれない。勝手に監禁して居なくなっておいてまだ私に命令する気?」
「勝手にだと?貴様が長風呂をしたせいだろうが。風呂場で何をしていたのか……」
ニヤリとした笑顔はまるでそれを知っているぞといわんばかりで、私は気分を逆撫でられた。
静かに、今まで出一番静かに声を発する。
「どちらにしても、帰ってらっしゃったんですから私は自由よね」
「帰ってきたんじゃない、立ち寄っただけだ。暫くしたらまた出て行く」
「はぁ?立ち寄っただけ?忘れ物でもしたっていうの?」
「…俺が忘れ物などするわけが無いだろう」
「じゃぁ、どうして帰ってくるわけ?私に何か御用?」
フンと視線を逸らしていう嶺は何だかバツが悪そうで、私は脱いだままだったバスローブを拾い上げ、嶺に背中を向けて着ながら様子を伺った。
バスローブの紐を腰で締め、嶺に近づき手を出す。
「…何だ?」
「御代をいただきます。ビチョビチョに濡らしてくれた洋服のクリーニング代と、これから帰る為の洋服代も合わせていただくわよ」
「貴様、耳が遠いのか?駄目だといっただろう」
「貴方こそ馬鹿?私が貴方の命令に従うわけ無いでしょ?従う理由も無いんだし。それにね、貴方がどう思っていようと私の本業は別にあって、コレが本業って訳じゃないの。このまま帰されないで明日になったら困るのよ」
グイッと手を嶺の胸元に押し付けると、嶺は私の手を取って引きずるようにソファーまで連れて行き座らせた。
嶺の行動は私の理解を超えていて、全く何をするのか分からない。
その事も私が早くこの場から去りたい気分にさせていた原因だったけれど、数多くの料理が並ぶテーブルが目の前にあり、私が座ったのを確認して嶺は私の横に腰掛けた。
一体何が始まるのか?何があっても言いように身構える私をよそに、嶺がいきなり食事を始めたので眉間に皺を寄せて隣の嶺を眺める。
「ちょ、ちょっと、何のつもり?」
「見れば分かるだろう。食事をしている」
「…だから、それが何のつもりかって聞いてるのよ」
「まだ夜は長い。食事位していっても損はしない。そうだろ?」
確かに、損はしない。
どちらかといえば、食べるだけでも得をするはずの一流ホテルの食事。
いつものホテルとは全然違うし、私の自炊なんて比べるに値しないほど豪華だろう。
(本当に一体何を考えているのかしら?)
『良いからサッサとお金を渡しなさい』そう喉まで上がってきた言葉をさえぎったのはお腹の音。
ウッとお腹を押さえたけれど時すでに遅し。
クスクスと笑う嶺の笑い声が私の耳に届き、チラリと視線を嶺に向ければ大雑把にフォークで刺したステーキ肉を私の目の前に差し出していた。


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