くちづけ

<Sweet Orange Story

  Love 愛しき言霊>

欲と男と嶺 8

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かみ締めたことにより、肉汁が現れて、私のあごを伝って下へと降り注ぐ。
「ククッ、まさに肉食な女だな」
楽しげに言った嶺は手に持っていたフォークを床に放り投げ、すばやく私のバスローブの紐を引き抜いて、私の両手首を縛り上げた。
男はどうしてこの手の攻めを好むのか?どんな男でも一度は私の手首や足首を縛り上げる。
自由を奪ったと自己満足したいのか?それとも、自分の優位を誇示したいのか?
体の自由を奪って女を好きにしようなんて愚の骨頂。
女を自分の思い通りにしたいなら、心からすべての意識を乗っ取ってしまえるほどの男にならないと駄目ね。
まぁ、それが出来ないから縛るのかもしれないし、単なる趣味なのかもしれないけど。
何度となく受けたこの束縛、私には結構慣れっこな出来事でため息混じりに、両手を縛り終え私の目の前に立つ嶺を見上げた。
視線をそのままに、口にくわえた肉片を横のソファーへ、ペッと投げ捨てる。
弧を描いて落ちていく肉片からは無数の肉汁が飛び散り、頬についた肉汁をぺろりと舌で味わった。
「食えばいいだろうに、もったいない」
「もったいないって思うんだったら普通に食べさせてくれればいいのよ」
「口移しでか?ククク、それもいいな」
「ハァ、ふざけるのもいい加減にしてよね。こういう趣味なの?それとも趣向?趣向だとしたら止めておいた方がいいわ。こういうのね、私はもう慣れっこなのよ」
「慣れっこか。それはそれは」
にやつく嶺の顔は下衆な想像をしているのだと容易に分かる。
「残念だが、俺は別にこういうのが趣味なわけでもないし、趣向として楽しもうと言うわけでもない」
「じゃぁ、何なの?」
「決まっているだろう?逃げようとするものを留めるには縛るのが一番だ。それともなにか、縄や手錠とかそれ相応のものが良かったのか?」
「どちらにしても最低ね。女を縛り付けて優位に立とうなんて」
「優位に立とうとはしていない。すでに俺は貴様よりずっと上にいるだろう?俺は貴様を買ったんだからな」
「買った?支払いがまだなら買ったとは言わないわ」
「あぁ言えばか…、減らず口とはまさに貴様の口のことだな」
あきれるかと思っていたが、嶺は更に楽しげに笑い、ソファーの前の机をどかせて、床に膝をついた。
嶺の両手が私の膝を捉え、見下ろす私を嶺は見上げる。
「…足も縛るのかしら?いっそのこと、ベッドのシーツでミイラにすれば?嫌でも逃げられないわよ」
「足を縛っては意味が無いだろう?」
口の端をあげて、涼やかに微笑んだ嶺は私の膝を左右に開き、その間に自分の体を入れた。
(どんなに色々言ってても、やっぱり、その辺の男と変わらない)
そう心の中で呟いて、私はハッとする。
蔑む呟きではなく、落胆の色を見せる呟き。そう、私は嶺の行動に落胆していた。



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