空と太陽と向日葵と…

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

向日葵と太陽 5

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心臓は大きく跳ねて静まる事を知らないし、顔は恐らく真っ赤だろうから振り向いて太陽の顔を見ることも出来ない。
俯いてはいたが、話を出来るだけでも不思議な位だった。
「……ぶ、ぶすくれてないもん」
「はいはい、クスクス、俺が言うといつもそういってただろ?懐かしいな〜」
「ムッ、そ、そんな変なことで懐かしがらないでよ」
「そりゃそうだ。アハハ!ま、とにかくまたお隣さんだ。よろしくな」
「(お隣さん……)うん、部屋は前と同じなんだね」
「あぁ、また勝手に入ったりするなよ〜」
「そ、それは太陽兄ちゃんも一緒でしょ!それに、私は勝手に入ったことなんてないよ!」
「そっか〜?あ、俺か?」
とぼけた口調でそういって笑った太陽は向日葵の頭から手を離すと、また窓の方へと歩いて行き、窓枠に足をかけて言う。
「そうだ、勝手に入らないけど、窓の鍵、開けとけよ。植え込みに落ちるのはゴメンだからな〜」
「わ、分った……」
「俺も開けとくけど、寝込み襲いに来るなよ?」
「だ!誰が!!」
真っ赤になって怒鳴り、振り向いた向日葵の目に爽やかに笑う、自分の記憶の中とそのままの太陽が写り、その姿は窓から窓を渡って向こうの部屋へと消えた。
「お隣さん、か……」
窓際へ歩いていって、太陽が出て行った窓枠にもたれかかりながら、既に部屋を出て行った太陽の居ない太陽の部屋を見た。
ダンボールが詰まれて、まだ荷物が散乱している太陽の部屋。
でも、壁紙もカーテンも記憶のままで、向日葵の心はキュッと痛くなった。
ずっと、小5の時から雨戸が閉まりっぱなしだったほんの70センチ向こうにある窓。
窓が閉ざされて1年目。
向日葵はいつかこの窓が開くんじゃないかとずっと待っていた。
もうきっと開かないそう思い出した2年目。
向日葵は消えそうになる太陽の姿を出来る限りとどめておこうと写真を持ち歩くようになった。
もう2度と窓は開かないんだと確信した3年目。
向日葵は淡い想い出全てに蓋をした。
それから……
向日葵がこの窓から向こうの窓を見ることは少なくなった。朝、カーテンを開く時と、夜、カーテンを閉める時だけ。
「相変わらず、ずるいな……太陽兄ちゃんは……」
フッと微笑した向日葵の笑顔の頬に涙が一筋こぼれ落ちた。

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