十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 20

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容姿が変わって2ヶ月が過ぎる。
私は住む場所を変わり、電話番号を変え、ボロ服を着て俯いていた頃など思い出せないほどになっていた。
天蓋のついた大きなダブルベッド。
ダブルベッドだけれど、ココで寝るのは私1人。
誰も私の城に入れたりなどしない。
一度でも、そんな事をしてしまえば男は私を欲しなくなってしまう。
あくまで『思わせぶり』でいる必要が私にはあった。
「フフフ、だって、皆私が欲しいんですもの……手に入れるためなら何だってするわ……そう、何だってね」
私を手に入れられるのは貴方だけ……
そう思わせながらも、私を手に入れることが出来ないとき、男は必死で私の気を引き、私の心を手に入れようとする。
そして、その行為が私をより幸せに、より豪華な生活を送らせてくれるのだ。
「さぁ、早く用意しなきゃ……」
自分で稼ぐ必要は無くなった。
とはいえ、私は未だあの会社で働いている。
あれから私は総務から営業部へ移動となった。
人事にお願いして、自ら望んで営業部へ移動したのだ。
昔はより人目につかない、より中の仕事を選んでいた私だったが、今はより人目について、より男と出会える場所を求めている。
会社を辞めない理由もそこにあった。
私にとって、男はそういう存在になっていた。
他の持てない、ブサイクな女子社員が「男漁り」というが、別に間違っているわけでは無いから否定もしない。
漁っているわけでは無いし、私が何もしなくても男性から誘ってくるのだから少し違うとは思うけれど、でも、彼女たちの言い分を怒って言い返すなんてことは一切ない。
だって、私は彼女達のその言葉が、自分が持っていないものに対しての羨望の裏返しであることを、誰よりも良く知っていたから。
自分には無いものを持っていて、そしてそれは決して自分には手に入らないものだと知ったとき、人はその人を自分より下に見る為に嘲る。
自分を保つ為に、自分を守る為に、そして、決して自分は羨ましがってなどいない、そう、自分に呪文をかけるのだ。
「……哀れよね」
フッと、微笑して、私はベッドから立ち上がる。
ベッドルームの壁の一部は大きな鏡になっていて、その後ろはワードローブ。
ベッドから起き上がったら、一度、下着を付けず、少し透けたベビードールに包まれている自分の体を鏡に映してから、ワードローブを開けるのが、私の日課となっていた。
そして、今日も、メリハリのある自分の体をその鏡に映しこむ。
透明感のあるベルベッドの様なさわり心地の肌。
丸く、重力に逆らって上へと膨らむ両胸は私が動けば妖艶にその柔らかい肉を揺らし、くびれた腰の下には程よく膨らんだ張りのあるお尻がある。
自分の体を眺めて惚れ惚れと鏡に映った自分のその体に手を触れた時、鏡がグニャリと歪んで、私の手は鏡の中に吸い込まれた。

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