十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 21

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少しグレーの少し暗いその空間に入った私に聞き覚えのある声がかかる。
「……どうやら、色々お楽しみのようですね〜」
きっと、昔の私ならその声にビクつき、オドオドとしていただろう。
でも、今は違う。
ニッコリ微笑んで私は返事をした。
「えぇ、おかげさまで。とっても楽しい毎日にだわ」
「それは……良かった」
私の目の前の空気がゆらりと揺れ動き、陽炎がその姿を実体化するように、ボンヤリとした映像のような存在が人へと変わる。
そう、あの鏡屋の姿に。
「……何か、私に用なの?」
鏡屋の無表情な顔を見ていると私は少し不安になった。
数ヶ月何も音沙汰の無かった鏡屋が現れたことの意味も分らなかったが、何より、私の体をジロジロと無表情で見つめる彼のその口から、どんな言葉が飛び出すのか。それが私を不安にさせた。
(まさか……体を返せって言うんじゃ……)
平静を装いながら、私は無表情な鏡屋の顔を眺める。
すると、フッと微笑した鏡屋が私に言った。
「安心してください。別に体を返せと言う為にアナタをココに呼んだわけではありませんから」
「え?!」
私は自分の不安をズバリと言い当てられて少し戸惑う。
一気に昔の私に戻ったかのように、顔全体に不安と戸惑いの表情を浮かべた私に鏡屋はそっと近づいて、私の顎に手をあて私の顔を自分の方へと向けさせた。
「アナタがこの体を気に入り。この体を最大限に利用しているのは良く知ってますから、楽しんでらっしゃる今、体を返せなどとは言いません」
「し、知ってるって?」
「……ご覧なさい」
彼は自分の体をスイッと横向きにして、私の目の前の視界を広げ、このグレーの部屋を見せる。
良く見れば、この空間には無数の人影があり、その人影はすべて私だった。
「私だわ……」
「そう、ココにいるアナタは別の時空、別の時間軸でもない。この2ヶ月間のアナタ。アナタが鏡に姿を映せば、この世界にその時点でのアナタが現れる……」
そう、どの私も私には見覚えのある自分だ。
ひしめき合うほどのその人数に驚いて呟く。
「こんなに……」
「えぇ、こんなに。以前のアナタとは比べ物にならないほどのアナタがココにはいる。それだけ自分の体を鏡に映した証拠でもあり、その体を楽しんでいる証拠だ」
鏡屋は私の後ろに回りこみ、ふんわりと私を後ろから羽交い絞めにするように抱きかかえて、そっと耳元で囁いた。
「楽しんでいるのにそれを取り上げて、アナタを悲しませるような事はしませんよ……」
「……じゃぁ、どうして私をココへ?」
「一応ね、アナタの意思確認。それと……」
「それと?」
「言い忘れていた事がありまして……」
鏡屋はそう言って、私を逃がさないようにするかのように、私の体に腕を絡みつけ、グイッと胸の中に閉じ込めた。

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