十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

鏡屋 22

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「痛っ……」
私の体に回された鏡屋の腕は痛いほどに私に食い込み、絡みつく。
体に痛さを感じて眉をゆがめる私に、かまう事無く鏡屋は私の耳に囁いた。
「さて、アナタは今後もこの体を使っていかれますか?」
「え?」
「簡単な意思確認です。今後もこの体をアナタの体として使い、今の生活を続けますか?」
「もし、続けないといえば?」
「当然、元に返っていただきます……続けないのですから、この体はいらないでしょう?」
「……そうね、当然ね」
瞳を伏せて言う私に、鏡屋はもう一度私に聞く。
「いかがされますか?」
「……元の体に戻るなんて絶対嫌よ」
「ふむ、左様ですか。承知しました。では、もう1つ……」
「まだ、何かあるの?」
私が嫌そうに眉間に皺を寄せて睨みつけると、鏡屋はニヤリと何かを含んだような微笑を私に向けて、そっと絡めていた腕を外して、体から離れた。
まだ、ジワジワとした痛みの残る自分の体をさすりながら、鏡屋の方に向き直れば、鏡屋はいつの間にか現れている椅子と机の傍に立つ。
「どうぞ……」
椅子を引いて私に座るように促した鏡屋から視線をそらす事はせず、じっと鏡屋を見つめたまま私は、そのひかれた椅子に腰を下ろした。
(……何なのよ)
私が不機嫌に溜息を1つつけば、クスリと鏡屋の笑い声が聞こえる。
「アナタに契約を結んでいただきたいのです」
「?。契約?」
「えぇ、どんなものでも手に入れるときには契約が行なわれるでしょう?アナタに結んでいただきたい契約は、アナタがその体を手に入れるための契約です」
「……何をすればいいの?」
首をかしげる私の横で鏡屋はフワリと空中に手をかざし、まるで手品のように何も無かった空間から白い紙が現れる。
空中に現れた紙は鏡屋の手の動きにあわせるようにして、ヒラヒラとゆらめき、私の目の前に舞い降りる。
鏡屋は紙の一番下にある空白を指差して、にこやかな笑顔を向けた。
「この部分にサインと拇印を押していただくだけで契約は成立します」
「それだけ?」
「えぇ、難しい事は無いでしょう?」
確かに難しくはない。でも、私はふと、一瞬よぎった不安を口に出す。
「難しくは無いけど……交換条件は何?」
「クスクス、素晴らしいですね……姿が変われば頭も良くなるのでしょうか?」
「……馬鹿にしてるの?」
「いいえ、褒めているんです。以前のアナタはその様な事、気にする事無く体を受け取っていったものですから」
おかしそうに笑う鏡屋の笑い声が妙に私を不安にさせ、そして、苛立たせていた。

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