雪華〜コイスルヒト〜

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

むかし、むかし 1

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「質問はたった一つなの」
静かに言う私の言葉に彼がビクリと体を揺らすのを感じ、一瞬私も聞くのをためらってしまったが、今ココで聞かなければ同じ事になってしまうと深呼吸をしてから次の言葉を口から出す。
「貴方は誰なの?」
「名前は知ってるだろう?」
「雨宮翔、知ってるわ。私が知りたいのはそんな事じゃない。貴方だって私が知りたがってる事が何なのか分ってるでしょう?貴方と最後に会ってから、私はずっと考えてたけれど、結局分らなかった。貴方は自分に関することは名前以外教えてくれないじゃない。不公平だわ」
「不公平?」
「だってそうでしょう?!貴方は私のことを知っているみたいなのに、私は貴方の事全然知らないなんて」
少し強い口調で怒鳴るように言いながら、私は自分の鼻の中がツンとして今にも涙が出そうなのを必死で堪えていた。
ココで泣いちゃったら、私は単なる駄々っ子。
眉間に皺を寄せ、瞼をギュッと閉じて、鼻から息をし、後ろから聞こえてくる彼の返事に耳を傾けた。
「ごめんね、苦しめてたのかな?」
「……そんな事、聞いてないでしょ。それに質問しているのは私」
「フフ、そうだね。僕の事、君が思い出せなくても本当は仕方が無いんだ」
そういった彼は腕をさらにギュッとして、私と密着し、私は振り向こうと思っても振り向けなくなってしまう。
彼の息遣いが私の肩から頬にかかり、右肩が少し重くなった。
「仕方が無いって。でも、貴方は私を知っていて、私も貴方を知ってるんじゃ……」
「うん、少しね意地悪をしたんだ。君がもし僕を知ってくれていたら嬉しいなと思って」
小さく笑って言う彼の言葉が何だか寂しそうで、私の方が思わず「ごめんなさい」って言いそうになって、口をギュッと閉じる。
「君が中学生の頃、近所に薄緑色のちょっと別荘風で建物に蔦がいっぱい絡まってる建物があったの覚えてる?」
「ぅんと…あぁ、お化け屋敷!」
「ククク、そうそう、そう呼ばれてたっけ。僕はね、そこの子供だったんだ」
「え?あれ、人が住んでたの!?」
「住んでたの」
私の反応に、クスクスと楽しそうに笑って言う彼。
確かに私が中学の時、通学路に蔦の絡まった古そうな家があって、学校ではあそこは空き家なのに物音がするお化け屋敷だって有名だった。夜になると、人が居ないはずの部屋の中で火の玉が揺れてるとか、女の笑い声が不気味に響くとか言われてて、また、それを肯定するかの様な外見の家と庭だったのだ。
「僕は生まれつき体が弱くって、学校にも行けなくてね。病気療養って事でその家に僕とお手伝いさんとで住んでたんだ。いつだって、同じ天井を見つめながら寝てた。つまらない毎日で、僕は益々体が弱っていくような気がしてたそんな時、君を見つけた」
「わ、私?私何かしたっけ?」
「僕の家の前は通学路で、皆が騒いで通学して、僕はいつもそれを聞きながら泣いてたんだけど、ある日、すっごい元気な女の子の怒鳴り声が聞こえてね、思わずベッドから起き上がって外を見たんだ」
「ま、まさか……」
「そう、君。巾着袋を振り回して、叫びながら誰かを追いかけていたんだ。中学校の制服を着てるのに、スッゴク元気で」
聞けば聞くほど、私はどんどん顔が熱くなって来ていた。



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