アナタがいたから…

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

序章 7

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予想もしなかったことが目の前に広がって私はなんとか足を踏ん張り、その場にへたり込むのを押さえる。
(ちょ、ちょっと……何なのよ。コレ……)
私の目の前には、30名ほどの知らない人達が一斉にこちらを眺め、ザワザワと口々に話し始めていた。
中には現代社会では見たことの無い、アニメやファンタジー映画の世界で見るような風貌の人も居る。
(いや、うん、ま……考えてみればおかしい事ばっかりだから、そういう姿も有りっちゃ有りなんだろうけどね)
頭で分っていても、体が受け付けないと言う感じでいる私に、クソ偉そうなオッサンの声が聞こえてきた。
「使徒様!こちらに来られよ!」
(……『様』付けておいて、偉そうに来いですって?ったく!あのジジィ……)
ムカッと眉を上げて声のしたほうを見て私は更に足を踏ん張る事になった。
視線の先には大きな椅子にえらそうに腰掛けたオッサンにまとわりつく様に女性がその体を絡ませている。
(い、いわゆる1つのハ、ハレムっちゅうヤツですか?!)
どう考えてもこの広間にいる30名ほどの人達は客人だろう。
そんな客人の前でイチャつく神経を疑っていると、その異様な雰囲気に部屋の中に入るのを少し躊躇している私に翳さんが耳元で囁く。
「さては、何も説明されておらぬのだな……」
「説明も何も……袁君が少しだけココがどこか教えてくれただけで……」
「では、この世界が凛がいた世界とは違うと言う事は知っているのか?」
「だ、だって、それはどう考えてもおかしいから……」
しどろもどろでそういう私の答えに翳さんは微笑を浮かべて呟いた。
「フム、親父殿も他の者達も……まったく、しようがないな」
ふぅと溜息をついた翳さんは私に優しい笑顔を見せて私の肩をグイッと抱きよせ、そのまま私をリードするように部屋の前に居る先ほどの偉そうなオヤジの目の前まで連れて行った。
(もしかして、気を使ってくれてるの?)
引き寄せられるその腕の強さにドキドキとしながら私は翳さんが歩けば歩き、座れば一緒にその場に座る。
「翳、お前は良い、下がれ」
私の横に居る翳さんにそういって、手をすっと横にかざしたオッサンに翳さんがニッコリ微笑みをたたえたまま言った。
「父上、全く何も説明されてないとか……幾らなんでもそれでは戸惑いましょう」
「これから説明するのだ。紹介をかねてな……」
「それではあまりに凛殿が可哀相では無いですか?突然この世界に連れてこられた上に、この大勢の前に何の心の準備も無く紹介されるのでは緊張もしましょう」
「そ、そうは言ってもだな。一族皆が集まって居れるのもほんのわずかな時間だ。使徒様には申し訳ないが……」
「では、紹介だけを済ませ、凛殿には別室で説明を聞いていただくとよいでしょう?」
「ムッ…か、勝手にしろ!」
(……このオッサンも翳さんには弱いのかしら?)
首をかしげながら見つめた私に、これでもかと言わんばかりの笑顔を向けてくる翳さん。
私は年甲斐も無く乙女のように胸をドキドキとさせていた。
ツイッと翳さんは私を促すようにして立たせる。
「さて、我が鬼龍王(きりゅうおう)一族の皆さん、こちらが、我等が一族の光麗(こうらい)となられる凛殿です」
翳さんがそう言うと、そこの集まっていた人達は一斉に拍手をして、私を見つめる。
授業中でさえ、ココまで大勢に見つめられた事など無い私は一気に顔を赤くした。
(な、なんだか……大変な事になってるんじゃないだろうか……)
私はさっきまでの自分の勢いが嘘のように、この場に居る事が不安で仕方なくなってきて、思わず涙が出そうになる。
(だ、ダメ……人前で涙なんて……)
必死で涙を堪えようとする私の体はフワリと宙に浮いたかと思うと、目の前にニカッと笑う聖君の顔があった。
「もう良いだろ?翳兄貴」
「聖。お前はこういう時位、キチンとした態度でいることはできないのか?いつもいつも……」
「いいじゃん、固い事言うなよ」
「仕方ないな……。それでは皆さん、凛殿もお疲れのようですのでこの辺で。暫しはこの屋敷に滞在されますが、御用の最は父上か私を通してくださいますようお願いいたします」
そう言って深々と頭を下げた翳さんは、聖君を促すようにして私をその部屋から連れ出してくれたのだった。


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