十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 3

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カロン、カロン……。
私はいつも通り、いつもの道を歩いていたはずだった。
トボトボ、トボトボ。
そう、いつも通り。
あの家に帰っていたはずだった。
でも……。
ぼんやりとした視界に入ってきたのは見たことの無い、歩いたことの無い十字路。
そして、そこにポツンと一軒の店。
自然と足が店の前へと向かって行き、自然と手が扉を開けていた。
何故か店のドアベルが耳に響いた。
何故か不愉快な気持ちが広がった。
「いらっしゃいませ」
出てきた男は顔の左半分に真っ白で無表情な仮面をつけ、右半分は素顔なのか仮面なのか分らないがニヤリと微笑を浮かべたまま微動だにせずそういった。
「あ、あの……、私」
「はい?」
「いえ、何でも……」
「ホホホッ……、【何でも】?」
男は笑顔の顔の瞳を薄く開いて聞いてくる。
その瞳はまるで全てを見透かしているようで、私はなんとも言えない不安に襲われ、思わず踵を返した。
「おやおや、もうお帰りで?」
「……帰っちゃいけないんですか?」
「いいえ、帰るのはご自由です。それはアナタが決めた事。私がとやかくいうことはありません。でしょ?」
そういわれて、私のドアノブに伸びていた手が引っ込む。
どうして引っ込んだのか分らない。
帰って良いって言われたんだから帰れば良いのに私はその事に躊躇した。
振り返ると男は椅子を引いて笑っている。
まるで導かれるかのように私の足はそちらへ向かい、椅子に腰を下ろした。
男はゆっくりと椅子から離れ、私から僅か向こうに立って座ることも無く腕を組んで私を見ている。
沈黙が続く。
男は何も喋らず、じっとコチラをみているだけ。
私は溜まらず口を開いてしまった。
「あの、どうして喋らないんですか?」
「アナタが喋らないからです」
「私が? 私が喋らないと喋らないんですか?」
「えぇ、それが私とアナタの関係です」
私にはこの店主が何を言っているんだろうと思った。

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