十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 5

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「それが良いとは思わない」
私の口は更に違う者の呟きとなってまた喋りだす。
「私が皆の言葉に頷き、願いを叶えるたび、皆はより私に強く要求してくる」
「それはそれは」
「でも、私はそれに頷いてしまう。嫌なのに、頷きたくないのに……」
「困りましたね」
「良い子で居たい。迷惑をかけたくない。争い事は嫌……。だから、私は頷く。だから、私は私を殺す。だから、私は自分でなんて選べません」
そう言って、私の口はゆっくりと閉じ、それ以降開く事は無かった。
私の話が終わるとみると、店主は一度店の奥へと引っ込む。
一人になった空間に響くのは古びた柱時計の振り子の音。
そして、私の耳に響くのは私の胸が早鐘を撞く音。
主は気分を害してしまった……。
適当でも自分の思ってることと違っても選んでおけばよかった……。
わけの分らない事を言い、はぐらかしていると思われたかもしれない……。
馬鹿にしていると思われたかもしれない……。
どうしてあんな事を口走ったのか……。
私が次から次へとそんなことを思っている時、店の奥から店主が戻ってきてゆっくり私に一つの面を手渡した。
店主の両手にのって私に差し出された仮面は真っ白。
目も鼻も無く、まるでのっぺらぼうのようなそんな白い仮面。
「あの……、これ」
「どうぞ」
腰を引いてその不気味で真っ白な仮面を見つめて、一体何なのか聞こうとした私の言葉にかぶせるように店主は更に手を差し出して言った。
「さぁ、受け取りなさい」
先程より少々強めの口調で言う店主に、私はいつものように反射的に頷いて受け取った。
瞳の奥に笑みの見えない笑みを浮かべた店主の手から仮面を受け取る、その仮面は端からホロホロと砕け、小さな粒となり、砂が風に飛ばされるように私の手から無くなってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
思わず口から出たのは謝罪の言葉。
自分が壊したわけでは無いのに反射的に出てしまったその言葉が私の肩にまた自己嫌悪と鎖をかける。
フッと思わず漏らしてしまった溜息を聞いて、店主はククッと笑った。

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