十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 6

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「良いんですよ。気になさらないでください」
「でも……」
「フフッ、仮面がアナタを選んだに過ぎないのです」
「仮面が私を?」
「えぇ。仮面は壊れたのでも、飛んで行ったのでもありません。もちろん消えた訳でもありませんよ」
不思議な事を言う。
実際、目の前で砂の様な細かい粒子となって飛んで行って、今、手元には何も無くなった状態なのに飛んでもなければ壊れたのでもない。しかも消えた訳でもない?
何を言っているのか分からないと首を傾げる私の様子を楽しそうに眺めて店主は続ける。
「お約束がございます」
「あ、え? はい?」
「一週間後、必ずここにお立ち寄りください」
「ここに一週間後?」
「はい、必ず。店が見えたら絶対にお立ち寄りください……」
鋭い視線が私に突き刺さり、私は思わず体を縮めコクリと頷いていた。
「あの……、もし1週間後、用事があって来れない場合はどうしたら良いんですか?」
私がそう聞くと、店主は声を殺すようにクックッと笑う。
「ご心配なさらなくても大丈夫です。この店に決められた営業時間はございません。一週間後のいつ何時であろうとも開いておりますよ……。ただし」
「ただし?」
「午前十二時を過ぎ、次の日になりました時、二度とこの店に立ち入る事は出来ません」
「え? 二度とですか?」
「はい、二度と。お気をつけくださいませ」
店主の不気味な言い回しは私をとても不安にさせたが、考えてみればとても簡単な事で、とにかく何時でも良いから一週間後、ここに来れば良い。ただ、それだけの事だ。
「わかりました。では必ず一週間後にお尋ねします」
店主の言葉にそう返事をしたとたん、私は自然と椅子から立ち上がった。
そしてまるで足が勝手に動くように店のドアまで行くとドアノブに手をかけていた。
(あ、あれ? 私、帰るのかしら? 帰って良いの?)
店を出て行くのかどうか、それすら自分の頭では全然分らないのに、体が勝手にドアを開く。
カランコロン。
耳障りだったはずのドアベルの音が心地よくすら感じ、私の後ろからは静かな店主の声が聞こえた。
「ご来店ありがとうございます……。必ず、またのお越しを……」
少し振り返ってみた店主の顔はとても楽しげでそして怪しくニヤついていた。

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