十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 7

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気が付けば私はいつもの通学路、住宅街にあるいつもの交差点でぼんやりと一人立ち尽くしていた。
「……えっと、私は一体……」
ゆっくりと頭を動かして、つい先ほどまで自分は一体何をしていたのかとここに居た理由の出来事を一生懸命思い出そうとする。
「あ……あれ? 何も無い? 何も無いのに私……、こんな所で何してるのかしら?」
どうしてこんな所、こんな場所の真ん中で自分が立っているのか、どんなに考えても思い出せない。
でも何故か、何か大切な事を忘れている、そんな気がした。
「大切な事……、何かしら?」
どんなに考えをめぐらせてほんのちょっと引っかかる事も無く、少し溜息をつく。
「フゥ……ま、良いわ。その内思い出すかもしれないし、思い出さないってことはたいした事じゃないのかもしれない……」
良く分からないままとにかく私は薄暗い道、街灯がちらほらと点きはじめた道を家に向かって歩き出した。
こつん、こつん……。
(どうしたんだろう?何だかいつも以上に疲れるてる気がする……)
別に部活動をしているわけでもないし、いつもの道を帰って来たに過ぎないのに、私の体はまるで大きな岩を背負っているように重たく、一歩一歩が辛い。
やっとの思いで三階建てのマンション最上階、一番端にある玄関に辿り着いた時には息切れすらしていた。
(……風邪でもひいた、かな?)
ハァハァと肩で息をしながら手に持っている学生鞄をあさる。
母子家庭で私は昔っから鍵っ子。
それを馬鹿にされたこともあるし、父に会いたいと思ったこともある。
でも懸命に働いてくれてる母の姿を見ているとそんなこと、単なる自分のわがままだと思えて言えなかった。
<そう、私は我慢した。>
(え? な、何!)
ドサン!
鞄の中で右往左往していた手が鍵を掴んだ途端聞こえた、私の頭の中の私が考えていない言葉に驚いて思わず私は鞄をその場に落としてしまう。
確かに、今、頭に響いたのは私の声。
でも、私はそんなこと考えてもいない。
(何? 一体なんなの?)
私は思わず私自身に問いかけていた。
……もう、声は聞こえない。
何だかゾクリとした得体の知れない感覚に何も無かったことにしようと鞄を拾い上げて、鍵を開けようとしていた私の手は震え、上手く鍵穴に鍵が入らないかった。
カチャカチャと震える手の振動が鍵に伝わり音をたてているとガチャン! と鍵が外されドアが開く。
「あ、あれ?」
思わず驚きの声を上げた私の目の前にドアを開いて首をかしげる母が居た。
「おかえり。どうしたの? そんなに驚いて。今日は早く帰るって行ってたでしょ?」
「た、ただいま……今日? 早く帰る?」
「今朝言ったでしょ? もう、忘れちゃったの? 仕方がないわね。さ、早く入りなさい」
母に言われ、導かれるまま部屋に入った私は更に首を捻る。
(今朝? だってあれは昨日……)
「さ、早く着替えてきて! 久しぶりに母さんが夕食を頑張って作ったんだから!」
「う、うん……」
玄関からリビングを通過ぎる時、リビングにある机に並べられている食事を見て私はハッとした。
そう、明らかにアレは昨日食べた夕食。
(どういうこと? デジャヴ?)
何かがおかしい……。
明らかに私はこの状況を体験したし、それは昨日の事だとハッキリ言う事ができる。
なのに……。
母は……。
まるでその出来事が初めての事のように振舞って、私に接していた。
理解の出来ない出来事に私は着替えを済ませながらも、ずっと頭をフル回転させて首をひねる。
どういうことなのだろう?
それは、私の日常が日常でありながら非日常な形を成し始めた、まさに【始まり】だったのだ。

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