十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 10

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そんな母の声を聞きながらも私は母を見る事無く私では無い何かが私の口を動かす。
「えぇ。分ってるわ……、ちゃんと、そう、ちゃんと理解しているわ。お母さんは私より仕事が一番なんだって事ぐらい……」
「そ、そんな言い方!」
「何か、違ったかしら?」
私の声は冷たく響き、そっとソファーを立ち上がって母の顔も姿も見る事無く、自分の部屋へと入ってパタンと扉を閉めた。
どうしてあんなことを言ったのか……。
どうしてこの口はあんな事を言えたのか……。
扉を閉めて、そのパタンと言う音と共に私の頭の中はそんな疑問がグルグルと回った。
「いいでしょ? だって、アナタがずっと言いたかったことじゃない」
<そんな! そんな事……>
「違うっていえるの? 全く違うって、思ったことなどないってそうアナタは断言できるの?」
<断言……>
「そう、ハッキリと違うって言えるの?」
その声はまるで私を試しているかの様な、馬鹿にした様なそんな疑問符をつけた声。
「言いたくなかった」「思ってない」そう断言できたらどんなに良かっただろう。
でも、私にはそう断言は出来ない。
だって、いつだってその言葉を飲み込んできたんだもの……。
いつだってその言葉は口のすぐそこにあって、あとは舌を、口を動かし喉の奥から音を出すだけの状態だった。
そうよ。
本当は言いたかったわ。
「一度で良い、仕事を休んで私を見てよ!」
でも、言えるわけ無いじゃない。
私は『良い子』であり続けなければいけないんだもの……。
きっと、誰も私の事を見てくれてなどいない。
きっと、誰も私の本当の叫びを知らない。
「言わないからよ」
<え?>
ポツリと呟いた声に私はハッとしてボンヤリとした思考を止めて声に耳を傾けた。
「フフフ、これからは私がアナタの代わりにアナタができなかったことを何でもやってあげるわ」
<私の代わり?>
「あら、まだ気づかないの?」
クスクスと笑う声が私の口から出ているのだと、私は口を動かして喋って無いのだと、その声に言われて気づいた。
一体どうなっているのか……。
いつの間にか声が私で、私が声になっている。
<ど、どういうこと?>
「やっと気づいたの? 自分の事すら自分で分ってないのね……」
<……返してよ>
「無理よ」
不機嫌に私が声に言うと、声は間髪入れずにあっさりとそれを否定した。

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