十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 12

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母に『最近どう? 』なんて聞かれた事は無い。
私の変化に気づいて話しかけてくれた事は無い。
だから、悩みなんて話したことなかった。
母の口から出る言葉はいつだって
「鈴は良い子だから手がかからなくって助かるわぁ。流石、私の自慢の娘」
良い子なんかじゃない。……良い子を演じているだけよ。
手がかからないんじゃない。……我慢してるのよ私。
自慢なんかじゃない。……自慢されても何とも思わないわ。
「ね? 彼女の中のアナタの存在なんてどうやって確かめるって言うの?」
<そう、ね……。アナタが正しいのかもしれない。お母さんは私を見てないんだわ>
私の答えに「でしょ? 」と言って嘲笑うと思った声は、急に静かになって笑う事も無く、ただ心に悲しい感情を心に広げて、フーと溜息をついた。
(……私はアナタの考えに同意したのよ? なのに何故溜息が出るの? 何故そんな悲しく溜息をつくの?)
私の考えは彼女に届いているはずなのに、彼女は何も言わず、それ以降、私に喋りかけることは無かった。
食事が終わり、自分の部屋から鞄を持って出た時、母が起きて来た。
「……おはよう」
声はとても無愛想で、冷たくて、私はチクリと心臓に針が刺されるように心が痛む。
「おはよう……。鈴、あのね……」
チラリと見た母は何だかいつも以上にやつれているような疲れているようなそんな雰囲気で、私の心はズキズキと痛む。
でも、声はそんな母を気にする事無く、何か言いかけた母の言葉を遮って低く怒っているような声で「いってきます」と言うと、家を出て行った。
いつもの通学路を歩いていく私の体は私では無い声が操っているなんて誰も気づかない。
当たり前な事。
だって見た目は私なんだもの……。
<ねぇ、あんな風な態度を取らなくたって>
「あんな風? 何の事?」
<お母さん、あんなに……>
「……トコトンお馬鹿さんなのねアナタって」
<馬鹿って、何よそれ>
「……」
出かけのお母さんの顔がやつれていて寂しそうで。何かを言いかけているのに出てきてしまった事に私の心の中は後悔が渦巻いていた。
だから声に注意を促した。
なのに……。
声は私を馬鹿にして、フーと溜息をつくと何も言わずにただ通学路を歩いていった。
(なんなのよ。なんなの? 意味が分からないわ……)

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