十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 17

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「じゃぁね〜鈴! また明日!!」
不意に聞こえてきた友人の声にハッとしてみれば、もう私はいつも通りの帰宅路を歩いている。
<……いつの間に>
ポツリと呟いた私に、声が答える。
「アナタが考えている間によ。知ってる? 一日って意外に短いものなのよ?」
<そう、知らなかったわ>
一日が短いなんて考えた事は無い。
私にとって一日は長いものだった。
ううん、一日じゃない一時間が……、授業の合間の十分間の休みさえ長いと感じていた。
「どう? 答えは見つかって? もう、期限が一日減ったわよ?」
<そうやってアナタは楽しむのね。私が四苦八苦している姿を……>
「……そう、まだ見つけてないのね。本当に鈴ってダメね」
【本当に鈴ってダメね】
その言葉の響きは聞き覚えがある……。何だっただろう……。
声にそういわれて、響き崩れていく頭の中で何かが現れ形作る感じがして、私は声に返事を返すことなく、その形作るものへと集中した。
遠い昔の遠い記憶……。
そう、私がまだ、小学生だった頃。
私は得意な科目も得意なことも何も無くって、ただ大人しい隅っこの方でモジモジしてるだけの【出来ない子】だった。
そんな私に言われるのはいつだって
「ダメね〜」
「どうして出来ないのかしら」
っていう否定の言葉。
でも、それを「ダメなんかじゃない!」って言い返すほど自分に自信も無かったし、実際、自分でも「ダメだ」って思ってたから私の口から出るのはいつだって
「ごめんなさい」
という謝罪の言葉。
謝れば済む。そんな考えが無かったとは言えない。
ののしられるのにも耐えられないし、いつまでもダメな理由を懇々と言われるのも嫌だった。
だから、どんなに悪くなくっても謝る私が居た。
でも、そんな私もただ一つ断トツではないにしてもソコソコできる事があって、その時間だけはとても楽しかった。
図画工作。
絵を描くのも、工作をするのも大好きで、周りの友達に褒められたりしていたし、成績表も、それだけはいつも五段階評価の五をもらっていた。
夏休み前の終業式の日。
成績表をもらった私は今回も五をもらっている図画工作の欄が嬉しくって、仕事から帰ってきた母に成績表をみせた。
他の成績は振るわなかったけど、図画工作は褒めてもらえるかもしれない。
そんな期待を持っていた私に母は何気に悪気も無く私の心に言葉の剣を突き刺した。
「本当に鈴ってダメね。どうしてこう、お勉強が出来ないのかしら? やっぱり塾に行かせたほうが……」
母は何も考えずに発した言葉かもしれない。
私の心を突き刺しえぐりとっているなんて気づきもしなかっただろう。
もう、これ以上傷つきたくない……。だから、傷つかないよう良い子になろう。
もう、ダメなんて言われたくない……。だから、言われない良い子になろう。
良い子にならなきゃいけない……。だから、今までの自分で居ちゃいけない。
【良い子】
良い子って何だろう?
勉強のできる子。
我が儘を言わない子。
……聞き分けの良い子。
そうして、私は今まで以上に言われた通りに言われた事をやって、笑顔を絶やさず、不平不満はすべて飲み込む事にした。

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