十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 19

イメージ


<……珍しい。お母さんが先に帰ってきてるんだわ>
「帰ってきたんじゃないかもよ?」
<え?>
「休んだかもしれないじゃない? 会社を……」
<そんな事、ありえないわ。だってお母さんは私が風邪をひいても仕事をとったのよ?>
「本当に、アナタって鈍いわ」
鈍いといわれて腹が立つ事は無いけれど、あまりに遠まわしな言い方で声の言いたいことがわからなくって私はちょっと溜息をついた。
すると、その様子を察した声が私に言う。
「何度も言うようで悪いけど、答えを出すのはあくまでアナタだからね」
<分ってるわ……>
そう、言っても声は私にヒントをくれている。今ならそう思える。
私は私の答えを出さなくてはいけない。後六日以内に……。
「ただいま……」
家に帰ってきた声は帰宅の挨拶を玄関先でする。
「……おかえり」
溜息混じりに聞こえてきた母の声は私の出した声よりも低く部屋の中に響き、私の心が<ミシッ>と音を立てた様な気がした。
私は息苦しくなった。
いつもしていた恐る恐るのドキドキ感ではない、胸の奥で何かが傷んでたまらないようなドキドキ感を感じながらも、声は母を横目に自分の部屋の扉を開けた。
母は今朝私が出て行くときと同じ格好をして、私の態度に大きな溜息をついている。
(本当に会社に行かなかったんだわ……。どうして?)
「鈴……」
母が部屋の中に入って扉を閉めようとした声の私に話しかけ、声は閉めようとした扉を止めて返事をした。
「何?」
「貴女、本当に鈴なの?」
(えっ? お母さん?)
「何言ってるの? 変な事言わないでよ」
「そう、変な事……、そうね。でも、母さんは貴女が鈴だとはどうしても思えないわ」
ビックリした。
驚いて、私は私の中でただ、呆然としていた。
今日一日、友達も、先生も私が私じゃないなんて言い出さなかったのに……。
「いつもに聞き分けのいい鈴じゃないからそう思うんでしょ? 私が好きで聞き分け良くなったと思ってるの? お母さん」
「そうね、鈴。貴女はいつでも聞き分けが良かった。確かに母さんはそれに甘えていたわ。鈴が文句を言わないのをいい事に見て見ぬ振りをしてきた。でもね……」
「でも、何だって言うの?」
「見ていないわけじゃないわ……。これでも、あなたの母親よ。見えていないわけが無いでしょう?」
<……お母さん>
「だから何だって言うの? 私は私。それ以外の何者でもないわ。本当に鈴なのって聞くこと自体がお母さんが私を分っていない証拠よ。見ていない証拠だわ」
声は強い口調でそう言って、部屋の扉をバタンと閉めた。
<……>
「……言わないのね?」
<何を?>
「お母さんにあんな言い方しなくても……。そうは言わないのね」
<言いたいと思ったわ。でも、言えなかったのよ……>
「どうして?」
<アナタの言葉が気になったから>
「……そう」
言葉少なに声と会話した私は再び暗い私の中で、ぼんやりとした意識の中で脳だけはフル回転で外の様子を気にする事無く考え始めた。
【私は私、それ以外の何者でもない】
そう言った声の言葉を。

イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

応援ヨロシクです♪
inserted by FC2 system