十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 25

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紅に染まるその十字路は何だか懐かしい気持ちにさえなってしまう。
(あれ?どうしてこんな所に?ここってこんな道だったかしら?)
いつもの通学路だったはずなのに、行き成り変わった風景に、私は彼女に【答え】を言い出せないままその美しい光景にただ見とれていた。
ボンヤリと真っ赤で血のようだと思うほどの夕焼けのその十字路は誰一人として通らず、電柱が長い影を道に作っている。
(何だか寂しいのに綺麗だと思ってしまうのは、なぜかしら?)
十字路を眺めていた私の足は、自然に、別段そこに行こうと意識をしたわけではないのに、ゆっくりと一軒の店の前に歩み寄り、その扉の前で突っ立った。
カロン、カロン……。
立ち尽くしている私の目の前で店の扉が開き、中からとても優しい笑顔を浮かべた初老の男性が私を招き入れた。
「……ここは」
ポツリと呟いた私にその老人は答えることはせず、店の奥に進むように手を差し伸べる。
古い、いぶされたような落ち着いた茶色い店内は何処かの喫茶店の様だったが、少し視線を上げた先に天井までびっしりと並べられた表情豊かな仮面が異様さをかもし出していた。
老人はゆっくりと一番奥にある椅子を引いて私を座らせる。
「あの……」
老人に聞こうとして私はハッとした。
私だ……。
私が喋っている……。
私の口から声を、音を発している……。
「どうして?」
私は私自身に質問していた。
私はまだ【答え】を彼女に答えていない。
なのにどうして私が私で居るのか……。私は、私じゃないのに……。
ゆっくりと両手を胸の前にもってきて、机に肘をついた状態で閉じたり開いたりしてみる。
動く。
自分の意思で。
そんな私の様子を見ていた老人がポツリと私に向かって言葉を発した。
「答えを見つけたのでしょう?」
「え?」
驚く私に老人はニッコリ笑って私に人差し指を突き出した。
「貴女は一体誰ですか?」
老人の唐突な質問に私は一瞬たじろぎ、ドキッと胸を一回鳴らして老人から視線を外し下を向くが、頭の中は異様に冷静で、その言葉の意味を探るように考えが巡っていた。
一体誰?
私が誰なのか……。
誰……。
<迷う事は無いでしょう? 考える必要も無いわ>
そう彼女が囁く。
そうね、考える必要など無い。迷う事も無い。
「私は……、私だわ」
ゆっくりと顔を上げ老人の視線を跳ね返すように顔を老人に向けて言う私に、老人はニヤリと顔を揺らして微笑み、その顔に手を当てて言う。
「貴女は貴女……。では彼女は?」
「……彼女。彼女を知っているんですか?」
「……答えなさい。彼女は誰ですか?」
顔を手で覆ったまま、指の間から鋭い視線を向けて聞いてくる老人の瞳はとても年寄りの発する輝きには見えなかった。

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