十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 26

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威圧的な視線。
まるで私を試すような質問。
この老人は。
この異様な店の異様な店主は。
私に何をさせたいのか……。
いや、何を言わせたいのか……。
「彼女は。彼女も私よ」
店主の目がニヤリと細くなる。
肩が上下に小さく揺れて、堪え笑いをしているのが手に取るように良く分かった。
「何か、私はおかしい事を言いましたか?」
「いいえ。どうしてそう思われるのです?」
口元にいやらしい笑みを浮かべて言う店主に少々ムッとしながら私は視線をそらす事無く、どちらかといえば睨みつけるようにして言う。
「貴方がニヤニヤと声も出さずに笑って私を見ているからです」
「……ほぉ、私の笑いが気になると?」
「当たり前じゃないですか。そんな笑い方をされて気にならない人はいないでしょ?」
「フフフ、そうですか……」
私の反応を楽しむように言った店主は笑う事を止めずに更に私の方に歩み寄り、前方に腰を曲げ、お辞儀をするような格好になると、指の間からのぞく瞳を私の睨みつける視線に絡ませるようにして私の顔の前にそのニヤつく顔を持ってきた。
「……では最後の質問です」
最後。
その言葉に何故か私はゴクリと喉を鳴らした。
「私は誰ですか?」
「はぁ?」
ニヤつく店主が最後に言ってきた質問。
緊張してその質問を待っていた私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
一体何を言っているんだろう?
この人は自分で自分がわからないのだろうか?
答えてあげられるかしら?
私はそう思った。
当然だ。
ただでさえ訳の分らない場所の不気味な店。
その店主であろう老人など私の記憶を幾らたどっても出会った記憶など無かった。
ただ、私は迷った。
「貴方など知らない」
そうハッキリ言っていいものかどうかを迷った。
ここまで失礼な態度を取られているのだから言ってもいいかも知れない。
彼女ならきっとハッキリそういっただろう。
でも私は彼女であるが、彼女そのものではない。
【鈴】の中の【私】は良い子だ。そんな事は出来ない。
でも、以前のように答えないと言う、黙ると言う選択肢は無かった。
なので、私は言葉を丁寧に選んだ。

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