十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 27

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「もし、以前会っていたとしたら申し訳ないですが私は貴方の名前は覚えていません。だから、貴方が誰か、私は言い当てる事はできません」
私の答えに店主はアハハッと大きく笑った。
「えらく丁寧なお返事で。そうですね。私は貴女に名乗っていません。だから私が誰か、貴女は言い当てる事は出来ないでしょう」
店主の言い分に私は首をかしげて老人に聞く。
「……では、何故私にそんな事を聞いたんですか?」
「貴女にとって彼女が貴女であるように、貴女にとって私は誰かと尋ねたかったのです」
「私のとっての貴方ですか?」
「答えられますか?」
こちらに向かってそういう老人に、私はにっこり笑った。
なんだ、そんな事か……、そう思った。
「えぇ、勿論」
老人の手の間から見ていた笑いはなくなった。
「貴方は私以外の者です」
私の答え。
以前の私なら店主の出す、まるでそれぞれの存在を示すような、そんな質問に口篭り、答えることは出来なかっただろう。
店主の顔色を伺ってその人の機嫌を見ながら答えたかもしれない。
不正解だと笑われるのが怖くって黙りとおしたかもしれない。
でも、今は違う。
恐らく出されるであろう質問に正解不正解を恐れる事無く答えることが出来る。
なぜなら、例え不正解だったとしても、それが私の正解なのだから。
それに、不正解だったのなら、正解を聞いて考え直せばいい。
恥ずかしがる事も。
間違いを恐れる事も。
他人の顔色を伺う事も。
納得しないまま人に合わせる事も。
今の私には不要なことだと。
それこそが不要なものだったのだと。
そう思えるから。
ニッコリと自然に頬には笑みが浮かんでいた。
何だか分らないけど、解放されたようなそんな気持ちが広がる。
私の笑顔に比例して、主人の顔は徐々に笑みが消え去り、その顔の表情は無くなっていった。
店主の顔の表情がスッカリ無くなって、顔が固まり、ピシンという音が店の中に響いた。

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