十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 28

イメージ


見れば。
店主の顔の真ん中に縦に一本の筋が。
みしり、みしり。
異様な音がきしみだして、店主の顔には無数のヒビが入り、小さくパラリパラリと落ちていく。
「こ、これは……」
私が驚いて眺めていると崩れていく顔の下の左半分には真っ白な仮面が、そしてさらに崩れていくとその半分にニヤ付く白に近い肌色の顔が見えてきた。
(仮面?あの老人の顔は仮面だったの?)
ハラハラと床に全てのカケラが落ち終わると、真っ白な無表情の仮面と、ニヤ付く顔をコチラに向け右手をスッと自分の左胸に当てて、ゆっくりと腰を折ってお辞儀をした男が静かに語る。
「ご来店ありがとうございます」
「ご来店? ……ココはお店なんですか?」
「えぇ、仮面屋。人の中に有る複数の仮面の中から埋もれてしまったその人一番大切な仮面を呼び起こしそれをオモテへ引き出す仮面屋でございます」
店主の静かな声は私の耳を通り、脳へと浸透していく間に、何かの戒めを解き放った。
徐々に……。
私の頭の中に呼び起こされていく記憶が【以前の私】を思い起こさせていく。
そうだ……。
ココは仮面屋。
店の雰囲気はスッカリ換わっているように見えるけれど、数日前、何気に入って出る事も出来ず、店主の言うままにうなづいていた仮面屋だ。
あの時、私の中に溶け込んで消えてしまった仮面。
あれが、私にとって一番大切な仮面だったのだろうか。
店主が呼び起こして引き出した……。
それは私のとって彼女だったのだろうか?
「私は貴方を知っています」
「はい、思い出されたのですね?」
「えぇ、どうして忘れていたのかしら?」
「貴女の仮面がそう望んだからです」
仮面が望んだ?
忘れる事を仮面が望んだと言うなら、仮面は私の存在を消したかったのだろうか。
「……私の仮面。それは彼女ですか?」
「その答えは貴女自身が出したではありませんか」
店主の無表情な白い仮面が優しく笑って言うのを見て私もつられてニッコリ微笑んでしまう。
店主の言う通り、私は私の答えを出した。

イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

応援ヨロシクです♪
inserted by FC2 system