十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 29

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店主の言い方では、それは正解だったようだ。
仮面は彼女であり、私もその仮面の一人。
【鈴】の中の無数に存在する【鈴自身】が作り出してきた仮面の一部。
「彼女は貴女にしまい込まれてしまった、今の貴女に一番大切な仮面……。いかがでしたか?」
「……私は私の為に彼女をしまいこんでいたと思っていたけれど、それは違った。私に本当に必要なのは私であり、彼女だったんですね」
「そう、それに、貴女はもっと感情を表さなければならない。楽しい時は笑い、悲しい時は泣く、それが人に許され、人である証」
静かな店主の声は私の中にまるでしみこんでいくように私はただ、店主の言葉に頷いていた。
「【人間の社会】つまり自分以外の存在がうごめく世界。その世界ではありのままで居る事はとても難しい」
そう……。
私以外……、【鈴】以外の【人】が【鈴】の周りに居る世界。
それは逆に【鈴】以外の【人】の中に【鈴】が居なければならない世界。
自分勝手に自分だけでいる世界とは違って来るのは当たり前の世界。
【人】にあわせ、【人】を見なければいけない。
だから……。
ありのままで居る事はできず、自分の中にさまざまな自分を作り出す。
店主の言葉は更に続く。
「難しいけれども、その中で自分の中の自分を押し込めてしまう必要は無い」
その意味を初めにこの店に尋ねたときに言われていたとしたら私は理解できただろうか?
そんな他愛の無い疑問がふと頭をよぎった。
私はきっと理解もしなければ、それ自身を飲み込むことも出来なかったかもしれない。
(あぁ、そうか……)
仮面が私に仮面屋を忘れさせた理由。
それこそが理由だったのだ。
私は私をキチンと認識する事ができていない。
そんな状態では例え仮面である彼女に何を言われても、取り合うことは無かっただろう。
仮面である【私】を気づくことも出来なかったに違いない。
彼女は……。いや、私の【仮面】は別に私を消したかったわけじゃない。
私に思い出して欲しかっただけなんだ。
「貴女は貴女……」
「私は私……」
「他の何者でもない」
「そう、私は【鈴】なんだわ」
私はギュッと自分自身を自分の両腕で抱きしめた。
温かい私自身を抱きしめ、その肩にフワリと乗せられる温かな手の感触を感じる。
「そして、貴方は私以外のもの……でも、私を形作る上で欠かせない外の存在なんですね」
「そう。人は一人で生きていく事ができる。でも、一人では生きていけない。己を認め、己の存在を確認してくれる外の存在が必要になってくる」
「でも、その外の存在に怯える事も、へつらう事もしなくて良いし、しても良い。それを決めるのは私自身」
「ありのままでいる事は難しい事だけれど、自分を見失ってはいけない」
「私自身の中の【私】をもつ事。それが私の行動を決め、私以外の者のかかわりを決めていく」
今までの私では出なかっただろう答え。
私の周りの人間が私を形作り、その中で私と言う人物が私のあり方を決めていく……。
店主の言葉に私が言葉を重ねていき、それにたいして店主は否定の言葉を述べる事無く更に言葉をならべていった。
店主がフッと微笑し、静かに低くこれまで以上に部屋に響き渡る声で私の方を向いていった。

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