十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

仮面屋 31

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……ず……鈴!
誰かが私を呼んでいる。
ボンヤリとした意識の中でそれを確認し、その声が母のものであると認識して私はハッと覚醒した。
目を開くと、目の前には母が私を抱きかかえるようにして居る。
「……お、母さん?」
「良かった! 鈴! 玄関で倒れているのを見たときは心臓が止まるかと思ったわ……」
「玄関? 倒れる?」
良く見渡せばそこは私の家の玄関前。
どうやら私はここに倒れこんでいたらしい。
(……仮面屋で意識を失って、ここに運ばれたのかしら?)
ホッと肩をなでおろす母に支えられながら立ち上がった私はゆっくりとそのまま家の中に入って、ソファーに座らされ、母の差し出した冷たい麦茶を一口飲んだ。
私の横に座って体を撫でてくれている母に、私はチラッとその顔を見て呟く。
「……お母さん、この前はごめんなさい」
「……」
「我が儘だって分ってたけど、でも、我慢できなくって。いつだってお母さんは忙しくって、私を後回しにしている様な気がして、私って必要ないんじゃないかって思った」
「そうね、母さんが悪かったわ。いつだって鈴は聞き訳が良くってそれに甘えていたわね。ごめんなさいね」
母の声が何だか素直に心に入っていく様な気がした。
少しの照れ笑いを返すと、母も私の肩をだきかかえて笑顔になる。
不思議な十字街の不気味な仮面屋での出来事は誰にも言うつもりはないけれど、きっとずっと私の心の中であるだろう。
だって……。
私は何だか今までの私とは違う、私らしい私としてこれからは生きていける……。そう思えるのはきっとあの仮面屋のおかげだろうから。
御代と称してもって行かれた私の仮面。
あんなに醜く歪んだ厭らしい顔。
私の中にあったなんて知らなかった……。
私の中の私である仮面を一つもっていかれてしまったけれど、あんな仮面なら無い方がいいと私は思う。
これから、私はきっと私らしく私として生きていける。
心からそう思った。


――男は歪んだ妬みの仮面を壁に飾りながらクククと含み笑いをして店一面に飾られた仮面を満足気に眺める。
「コレでまた、この店も賑やかになります」
<カロン、カロン>
「おや。いらっしゃいませ」
――店の入り口から入ってきてキョロキョロと店の中を見てまわす男。
「あぁ、私の店は仮面屋です」
――男はニッコリ笑って言う店主の近くにある仮面を見て後ずさる。
「フフフ、凄いでしょ? 先ほど入荷した仮面なんですよ。そんなに気持ち悪そうになさってはいけませんねぇ。アナタだって持っている仮面ですよ?」
――怪訝そうに見つめる男に席を勧めながら店主が言う。
「喜怒哀楽、それ以外にも仮面は様々にございます。この醜く歪んだ妬みの仮面がその一つ」
――誘われるように席に座った男は首をかしげる。
「こんな仮面、無い方がいいと思っているでしょう? そうでもないんですよ。そこから生み出される物もある。人のもつ感情に不要なものなど無いのです……。それが分かるのはそれを無くした時。徐々にその気持ちに気づき、その仮面を取り戻そうとも、無くしてしまった自分の仮面は、もう取り戻せないのです」
――クスクスと楽しそうに笑う店主。
「さぁ、アナタはどんな仮面を探し、仮面を見つけるでしょうね?」
――笑顔で言う店主の漆黒の瞳の奥できらりと何かが光る。
……そして、どんな仮面を私に頂けるんでしょうか……。
店主の小さな囁きは店主の左の白い仮面の中にしみこんでいった。


〜仮面屋 Fin〜

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