十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 6

イメージ


女は目の前の机に数種類の紙を一枚ずつ並べ始めた。
赤、青、緑、黄、白、黒……。
6枚の紙は並べられたままその場に存在していて、俺は何が始まったのかとしばらく様子を窺った。
「さぁ、示しなさい……」
女がそう言うと紙は風も無いのにゆらりと揺れて、舞い上がり、俺の体のスグ前に一枚の紙がフワリと落ちる。
黒。何かの意味があるのだろうか?
黒い紙だけが俺の前に舞い降りて、他の紙は揺れ動きながら女の下へと降りていく。
「そう、貴方は黒を選んだのね」
女の言葉に思わず疑問が口に出た。
「選んだ? 俺がこの黒色を選んだっちゅうんか?」
「えぇ、そうよ。違うとでも言うの?」
「そりゃそうやろ? 選べ言われてコレって選んだわけや無いやろ? アンタが勝手に示せとか何とか言って、紙が舞い上がってたまたま、俺の前にこの紙が来ただけやん」
「……たまたま、ね?」
女は俺の言葉を繰り返し、クスクスとおかしげに笑うと、フーと一息ついてチラリと俺を見つめて微笑む。
「まぁ、いいわ。その意味は私が説明するべきじゃない。貴方自身が見つけること。契約、するんでしょ?」
「あ、あぁ……」
俺自身が見つける? 意味? 何の意味だ? 眉間にシワを寄せて女の言葉に頷いた俺だったが、やはり気になり女に聞こうと口を開いた瞬間、俺が言葉を発するよりも早く女が言った。
「では、ココに名前と、血判を押してくれる?」
(……質問はさせへんつもりなんか? それに血判って……)
俺は一瞬たじろいだ。
拇印ではなく血判。
歴史の授業などで聞いたことはある、自分の指を切って捺印する方法だということは知っている。だが、実際にやるなんてことは今まであるわけなかった。
目の前にある黒い紙を両手で持ち、ジッと見つめた。
上の方に【契約書】と書かれているだけで、真っ黒な紙にはそれ以外の文字は見当たらない。
(一体俺は何を契約するんだ?)
俺がそう思っていると俺の顔の右横から細く白い指が現れそっと俺の左頬をなで、右耳にハスキーな声が聞こえる。
「契約……しないの? もう、お帰りになられるのかしら?」
「そ、そんな事言うても、これ何も書いてへんし、血判って……」
「クス、そうね……。でも」
女から香ってくる薔薇の香りに噎せそうになった時、息が耳にかかって俺の心臓は暴れ始めた。
頭で考えがまとまらなくなってきた時、囁くように女が言う。
「でも、しなければコレっきり。それは変わらない。」
「うっ……」
「いいのよ、別に……ココで帰ると言うのなら私にそれを止める権利は無い。契約をするもしないも貴方次第。私が口を出すことじゃないから」
女の言葉は秘薬のように俺の耳から染み込んでいき、ゆっくりと俺の手を動かす。
したくないとは言わない……。
いや、女が、女の体温が、香りが俺に拒否の言葉を言わせはしなかった……。
それほどに女の魔力は俺を捕まえて離す事は無い。
真っ黒な紙に白い文字で俺が名前を書き、血判を押すまで、女は俺の体を後ろから抱きしめるように腕を回してその様子を見守っていた。

イメージ上へ
イメージ イメージ イメージ

web拍手 "

応援ヨロシクです♪
inserted by FC2 system