十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 7

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指を、置かれた小刀で少し切って血判を押すと、その手に指を絡めるように女の手が重なって、ゆっくりと俺の血が流れる指は女の唇へと運ばれた。
「契約成立ね……」
女はそういって俺の指を舐る。
女の生温かい温度が俺の指先から伝わって、絡みつく舌の動きに俺の呼吸は荒くなる。
(さ、誘ってるんか?)
そう思わせる女の行動に俺がゴクリと生唾を飲んでもう片方の手を女に伸ばそうとすれば、女はフッと笑って俺の指をそっと唇から引き抜いて傷口を舌で舐め上げ、契約書を手に俺から離れた。
女に伸ばそうとしていた手を握り締め、フ〜と深呼吸をすれば、女が振り返っていう。
「血は止まったでしょ?」
女に言われ見てみれば確かに、先ほどまでジンワリと流れ出てきていた血がとまり、傷口もふさがろうとしている。
「……どんな魔法を使ったらこうなるんや?」
「魔法? クスクス、変なことを言うわね? 私は魔女じゃ無いわ」
「浅い傷やとは言え、切り傷がこんなに早く治るわけ無いやろ?」
「あら、そうかしら? それこそ貴方の言う【たまたま】なんじゃないの」
クスクスと俺の言い分に取り合おうと言う気は全くないという素振りを見せて笑う女に多少イラッとしながらも、俺はその妖艶な姿に見とれてしまっていた。
別に俺は女と付き合ったことが無いわけでもないし、チェリーってわけでもない。
だが、この女は今まで俺の周りに居た女とは違う。着飾りただ、男に取り入ろうとしている女や、頭の良さを鼻にかける女どもとは全く違う。
届きそうで届かない俺の理想。
そんな事を考えながら、俺は口に手を当て、女に悟られぬよう、ゆっくりと呼吸を整えていたが、不意に俺の目の前にオーロラ色をした不思議な糸で繋がった五つの石が置かれた。
「……なんや。これ?」
「言ったでしょ? 私は石屋。貴方の願いをかなえる石屋よ」
そういえばそうだった。
俺は女に気をとられて忘れていたが、ココは石屋だったのを思い出し、改めて石を眺めた。
「また、選ぶんか?」
「いいえ。もう貴方は選んでいるわ。さっき契約したでしょ?あれはこの石たちとの契約」
女は繋がった石をブレスレットのように俺の右腕にはめてそっと耳元で囁く。
「貴方が本心から……、心の底から願った願いはこの石がかなえてくれる」
「石が……、願いを?」
「そう。ただし、願いは一つの石につき一つ。つまり、五つの願いしか叶わない」
「なんや、五つも叶うんならエエんとちゃうんか?」
俺の言葉に女はフフッと微笑を浮かべて「そうね……」と呟いた。
女はゆったりと歩いて店のドアまで行くとそっとそのドアを少しだけ開いて言う。
「貴方は石との契約を結んだ。この店には貴方が望む時に望むだけ訪問できる」
「望む時に……それって何時でも何処でもって言う事か?」
「ええ、貴方の望むままに……」
女は徐々にドアを開いていき、俺は何故かドアが開くたびにそのドアに体が吸い込まれるように歩みを進め、ついにはドアの近くまでやってきた。
「本日はご来店頂き誠にありがとうございました……」
ドアの傍に立ち尽くしている俺に向かって女は怪しげな、しかし、頭がボーとする程に美しい笑みを浮かべ、最大にまでドアを開くと、俺はボンヤリとした意識の中、自然と体をドアの外へと向かわせ、外に出る。
「またのお越しを……」
背中から女の声が聞こえ、背後でバタンと扉の閉められる音がした。

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