十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 9

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空中に飛び出した紫の破片はフワッと時間が止まったかのようにその場に留まり、キラリと一度紫色に光って、細かい光の粒となって空気に溶け込む。
(……一体何が?)
呆然とその様子を見ていた俺の意識を現実へと戻したのは携帯電話の着メロだった。
ハッとして、机横にある鞄をまさぐり、電話の液晶に現れている着信者の名前を見た。
「教授?」
その名前を見て、俺の手は自然と振るえ電話を握り締める。
(嘘やろ?)
俺の心の第一声。
(マジでか?)
俺の心の第二声。
震える手で、緑の着信ボタンを押した。
「も、もしもし……」
「あぁ! 田所君か? 悪いな〜夜遅くに。寝とったやろ?」
「いえ、大丈夫です。それより、何か用ですか?」
「それがな、君のレポートをもう一度見せてもらったんやけど……」
教授の話を耳で聞きながらも俺は自分の心臓がバクバクと鼓動するのを感じ、電話をもっていない左手で自分の胸倉をグイッと掴んだ。
そして、頭の中は別のことを考えていた。
(石が。願いを叶えた……。そんな、ホンマにそうなんか?)
その瞬間、あの女の艶やかな赤い唇の微笑が頭に浮かぶ。
『ね? 言ったでしょ?』
俺の頭の中で女は微笑みながらそういって、俺にフッと息をかけてきているようなそんな気がした。
「……というわけなんや。おい、田所君、聞いてんのか?」
「あ! は、はい! もちろん!」
「そうか〜じゃ、明日」
「はい、明日伺わせて頂きます。……はい、では、失礼します……」
プープープー……。
電話を耳からはなし、受話終了のボタンを押そうとしてシャリンと音をたてる四つの石を眺める。
石が砕けてスグに教授からの電話があった。
内容は俺のレポートが素晴らしいと言うこと、評価を変え、そして、論文として今度開かれる学生大会に出そうと言う話。
明らかに願いが叶ったのだ。俺の願いのまま。
平伏さないまでも、電話向こうであの教授が俺に【お願い】をしたのだ。
ボンヤリと、自分の右腕にユラユラと光り輝き、涼やかな音色を立てる俺だけのブレスレットを眺め、自然と俺の口はニヤリと引きあがる。
その時、俺の中には新たな欲望が生まれていた。
俺はベッドにうつ伏せに倒れこみ、湧き出てくる笑いを必死で抑える。
そして……。
俺の部屋には、電話の受話終了の音がプープー……と鳴り響いていた。

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