十字街

<Sweet Orange Story

  Life めぐり会う言霊>

石屋 10

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クスクス……。
クスクス……。
赤く艶めかしい唇の端を少し上げて女が机の上においた大きな水晶の玉を見つめて微笑んでいる。
「……何だか今日は偉くご機嫌じゃないか。石屋のオババ」
「いい加減その呼び方は止めとくれ……、鏡屋」
「ケッ、どう呼ぼうと俺の勝手だろ? 第一、若作りして『お姉さん』何て呼ばれて嬉しいのかい?」
「余計なものをつけて呼ぶんじゃないって言ってるんだよ……。石屋で十分だろ?」
「はぃはぃ、石屋さんね」
ドアを開けずに不意に部屋に現れた金色で長髪の透き通ったような白い肌。若い姿の無作法な男はヤレヤレと肩をすくめて返事をし、楽しそうに微笑んでいた女の目の前の椅子に腰掛けた。
女はその様子を黙って眉間にシワを寄せてみていたが、男の腰が完全に椅子に降りると、ボツリと男に低い声で言う。
「誰が腰掛けて良いと言ったかえ?」
「誰も言ってねぇよ。俺が腰掛けたいから腰掛けた。ただそれだけ。それに……」
男はぐるりと首を回してワザとらしく部屋を眺めてニヤリと笑った。
「この部屋のこの椅子以外に何処に腰掛ける場所がある?」
「フン! 呼びもしないのに突然現れるヤツなど床で上等だろう」
「ククク、ひでぇ〜店主さんだ」
「嫌だったら出てお行き」
「酷いといっただけで嫌だとは言ってねぇよ。俺はアンタのこと結構好きだぜ?」
「虫唾が走る! 薄気味の悪い……」
「ククク、そうそう、アンタのその反応が大好きだぜ」
楽しげに笑う鏡屋の男の姿に少々イライラしながら石屋の女は睨みつけていたが、スグにフンと鼻息を一つ放つと水晶に映し出される映像を微笑を浮かべて眺めた。
女の反応がなくなった事で男はからかい甲斐が無くなり、チェッと舌を鳴らして席を立つ。
女の左肩に右手を乗せて女の見つめる水晶を横から覗き込んだ。
「……ふぅ〜ん、今度はその男がアンタのターゲットかぃ?」
「いやらしい言い方をするんじゃないよ。大切なお客様だ」
「ま〜そりゃそうだろう。この十字街にやってくるヤツラは誰かしらの店のお客様だからな。で? コイツ一体何してやがるんだ?」
「お前には関係ないだろう。鏡屋は鏡屋の仕事をしてれば良いじゃないか」
「フン、よく言うぜ。散々他の店の客を横取りしておいて。さっきだって仮面屋にちょっかいを出しに行ってたのは何処の誰だか」
「……だから鏡屋は嫌いなんだよ」
「ククク、嫌なら鏡のあるところには行かない事だな……。それに、嫌なら鏡を置くんじゃねぇよ。で?質問には答えてくれるのかぃ?」
ニッコリ笑って言う鏡屋の男の顔にフーとため息をついて女は話し始めた。

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